マスダ動物病院のエピソード
愛花ちゃん、こんにちは♪
2010年10月7日の午後、隣に住む義妹が一匹の可愛らしい仔猫を連れてやってきました。

部屋の外から大きな仔猫の鳴き声がしたので見に行くと、一匹の仔猫が庭の片隅でお母さんを捜してでもいるかの様に大きな声で鳴いていたというのです。

しかしその場所は高い塀を越えなくては入れない場所で、その子が自力で入ることなどとても出来ません。
だとすると、誰かがその塀を乗り越え侵入し置き去りにしたか、仔猫を投げ入れたとしか考えられませんでした。でもそれはあまりにむごいこと・・・。

この子をひとりぼっちで置き去りにすることがこの子にとってどれほど心細く恐ろしいことなのか・・・。仔猫の気持ちを思うと、とても切なくなってしまいました。

仔猫をとりあえず預かることにして、身体に沢山のノミが寄生していたのでまずノミの駆除をしました。

仔猫はノミに寄生されていただけでなく腸内にコクシジウムという寄生虫も寄生していました。そこで早速コクシジウムの駆虫も行いました。

そうして仔猫をよく見ると、ぷっくりとした身体。薄目を開けてこちらを見ている可愛い顔。どこから見ても、とても可愛い猫ちゃんです。
「なぜその人は、こんなに可愛らしい仔猫を捨てたりしたんだろう・・・」

初めは恐怖と緊張で部屋の奥の方で固まったまま動けず食べられなかったフードも、しばらくするとよほどお腹が空いたのでしょうか、カリカリと夢中になって食べ始めました。その姿が、なんとも愛おしくてたまりません。

とても可愛らしいこの子に新しい出会いがあるといいなと思っていました。
でもこの後、大きな問題が見つかったのです。

じっと座っているその姿にどこか違和感が・・・。明らかに手足に異常があるようなのです。

左右の手が手首の少し上の方で、内側にねじれているのがすぐに見て分かりました。
特に右手に関しては、肘から下のねじれが激しく、ねじれた手は肘の辺りまで床に着いてしまっている状態でした。
また右の後ろ脚も膝から下が内側に90度程ねじれていました。

更によく見てみると左右の前肢が親指の根元まで裂けていて、5本あるはずの指が4本しかなく、その代わりに5本目にあるはずの指の爪だけが手のひらのパットから生えていたのです。

明らかに正常ではない手と足。だから捨てられてしまったのでしょうか。でもそれではあまりにも可哀想・・・仔猫の状況に胸が切なくなりました。

以前に保護した仔猫の愛之助(あいちゃん)は、怪我を負ったことがきっかけでとうとう最後まで手足を動かすことが出来ませんでした。

この仔猫も足に問題があることであいちゃんと同じように歩くことが出来なくなるのだろうか。
これから先いったいどうなるのだろうと心配になりました。

とっても可愛いけれど思いがけず手足に障害があったこの子に、新しい飼い主さんを見つけることはやっぱり難しいことだと思いました。


足に問題があるこの仔猫の哀しい境遇が、保護した後大切に育てていたけれどたった55日しか一緒にいられなかったあいちゃんと似ている気がして・・・。

どなたかにこの子のことをお願いするよりも、“病院の仲間”となって、これからスタッフや動物の仲間のみんなと一緒にいた方がいいかなと思いました。
そんな流れで、晴れて仔猫はこの日から大切な“病院の仲間”となりました。

だからこれからは、ずっとず~っと一緒です♪



猫ちゃんを保護して連れて来てくださる方は、本当に心の優しい方だなと思います。
その優しい方に救ってもらった大切な命をその後どうして行くのか、そこがとても大切なところです。

本来、猫ちゃんを保護して下さった方にその後のお世話をして頂けないかを伺い、もしそれが可能でない場合は、保護して連れて来て下さった方にも、新しい飼い主さんを探して頂くようにお願いをしています(その際に、当院でも里親さんを探すお手伝いはさせて頂いております)。
そうして探す努力をしていると、手を上げ、飼って下さる方が見つかります。

優しい方がいる一方で、残念ながら、生まれてきた仔猫を安易に捨ててしまう人がいるのも事実です。

簡単に捨ててしまう前に、自分がお世話をすることが出来ないのなら、せめてその子がしあわせになるための努力を惜しまないで欲しいのです。新しい飼い主さんを探す努力をすれば、必ずその子をしあわせにしてくれる人が現れるものです。世の中、思っている以上に優しい方がいるのです。

だから簡単に捨てないで、その子がしあわせになれる努力をして欲しいと心から願います。



さて、仔猫は病院の仲間となりましたが、名前がまだ決まっていませんでした。

仔猫の名前を決めようと思った時、またあいちゃんのことを思い出しました。
あいちゃんが保護された時はもう無理かもしれないという瀕死の状態でした。けれどお世話をする中で名前を付けてあげたいと思いました。

ひとりぼっちで捨てられて、誰にも気づかれない様な塀の隙間で、野良猫か他の野生動物に首の辺りを咬まれ倒れていた・・・そんな可哀想な仔猫が人から愛されしあわせになれるようにと願って「あいちゃん(愛ちゃん)」と名付けました。

でもあいちゃんは男の子だったので本当の名前は男らしく「愛之助」、そして愛称は「あいちゃん(愛ちゃん)」と可愛らしく。そんな思いから付けられた「あいちゃん」という名前。
あいちゃんは一日中ほとんど目を閉じたままで、声掛けにもあまり反応がなく動くことはありませんでした。
でも存在そのものがとても優しくて、とっても可愛かったのです。

あいちゃんとは55日でお別れとなってしまったのですが、あいちゃんと一緒の時間がとても優しく穏やかで、あいちゃんに出会えて本当によかったと思いました。

そんな「あいちゃん」という名前がやっぱり好きなので、同じように捨てられて哀しい境遇になってしまったこの仔猫がみんなに愛され、そして仔猫の周りにもいっぱい愛の花が咲き、みんなもしあわせになれるようにという願いを込めて「愛花」に決めました。

この日から仔猫の名前は「愛花ちゃん」です。


「愛花ちゃん、こんにちは♪」これからずっとよろしくね!


“病院の仲間”になった愛花ちゃんのその後のお話が
「病院の仲間たち」に載っていますので、そちらも是非ご覧くださいね。

担当 増田葉子

 

 

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