愛花

 

2010年10月7日に、一匹の可愛らしい仔猫が保護され病院にやって来ました。
思いがけないことに手足に障害があったため里親さんを探すことなく、マスダ動物病院の大切な仲間として迎え入れて皆と一緒に暮らしていくことになりました。

仔猫に愛花と名付け、スタッフのみんなからも可愛がられながら、身体のハンディなど全く気にすることなく元気に走り回っていました。

保護してからしばらく経った頃、院長が愛花の手の曲がりの矯正にトライしてみたのですが、時間がたっぷりある愛花はバンテージを一日中カリカリと噛み続けて2~3日で取ってしまい、それには流石の院長もお手上げでした。

曲がったままの手であっても何不自由なく日常生活を送っている姿を見て無理に難しい矯正をしなくてもいいだろうと、そのまま様子を見ることになりました。

そんな自由の身になった愛花には楽しい時間がありました。それは先輩にゃんこのさくらと一緒にスタッフルームに連れて行って遊んでもらうことでした。

実はさくらも駐車場を彷徨い歩いている所を保護された元野良猫ちゃんでした。
この時既に12歳のさくらは、立派なおばあちゃんにゃんこ。新米にゃんこの愛花は、そんなさくらおばあちゃんに色々なことを教えてもらいました。

さくらおばあちゃんが近付いて来ると、愛花は体を小さく丸めて緊張してしまいましたが、そんな愛花をさくらは威嚇する事なく優しく受け入れてくれました。

体格差があるので最初はさくらが愛花にケガをさせてしまわないかと心配しましたが、そんな心配は全く必要なく、さくらは愛花の親代わりとして遊んでくれていました。

寝ている事が多くなってきたさくらにとっても良い遊び相手が出来たようで、二匹でじゃれ合って遊ぶ姿に癒されました。

この頃の愛花は噛み癖が強くて、テンションが上がると人の手でも力いっぱい噛むので、手に傷が出来てしまう事もありました。そんな愛花に噛む力加減を教えてくれたのはさくらでした。

遊びたい盛りの愛花はさくらの動かした尻尾に向かってじゃれたり、足先を噛んだりとさくらにちょっかいを仕掛けていました。
問題がなければさくらはじゃれ返して遊んでいましたが、愛花が力加減を間違えた時やちょっかいが激しい時には、噛まれた瞬間に怒って強く噛みつき返したり、その場から立ち去って無視したりすることで強く噛み過ぎてはいけない事や、遊びの誘い方などを教えていました。

こうして愛花はさくらに鍛えられ教えられながら、猫同士や人と暮らしていく上での社会性など色々な事を覚え成長していきました。

元気いっぱいの愛花は、顔と同じくらいの大きさの猫じゃらしに飛びついて大はしゃぎ! 上手に両手足を使って遊びます。

普通の猫ちゃんの様に動かせない手足でも愛花にとってそれはごく当たり前のことで、不自由さも感じることなく夢中になって遊ぶ姿を見て、ハンディがあって可哀想だとかそういう問題ではないのだと改めて実感しました。

保護してからひと月ほど経った頃、二階の自宅にも連れていったことがありました。
二階ではプードルのルイちゃんとビション・フリーゼのハ~ト君がお待ちかね。特に好奇心旺盛なハ~ト君は新入りの愛花に興味津々です。

もっこもこの大きなハ~ト君が近付いて来て、愛花ちゃんは体中の毛を逆立てて緊張状態です。
このまま萎縮してしまうのかな~と心配していたら意外や意外、そうでもなくて。リラックスしてずっと前からここにいるかの様に堂々と両足を伸ばしてこちらを見ているその姿に、思わず笑ってしまいました。

愛花ちゃんのことが気になって仕方がなかったハ~ト君でしたが、気付いたら愛花ちゃんの方がお兄ちゃん達のそばにいて甘えるようになっていました。




そんな無邪気な愛花ちゃんも、ルイちゃんとハ~ト君と過ごした後は一階の病院で仲間のみんなとずっと一緒に過ごしていました。“病院のなかま”になってから、あっという間の10年。無邪気な愛花ちゃんも、10歳の女の子に成長しました。

日中は検査室の特設サークルの中でスタッフ丸ちゃんお手製のハンモックにゆらゆらと揺られ、お昼休みにはスタッフのお姉さんに休憩室へ連れて行ってもらってそこでも終始リラックス。

冬になるとさくらと一緒に暖かいヒーターの前でポカポカと温まり、幸せそうな寝姿でスタッフのみんなを癒してくれました。

一階の病院には猫のさくらの他に、ミニチュアシュナウザーのココアがいます。最初は緊張していた愛花もココアと仲良しになり、しばらくすると二匹はケージ越しに遊ぶ様にもなっていきました。

歳も近いのでお互いに兄妹が出来たと思っているかのようにも見え、仲の良い二匹の姿にほっこりしました。

愛花が5歳の時に、先輩猫として色々な事を教え、どんな時も優しく見守り続けてくれたさくらおばあちゃんとのお別れがやってきました。そしてさくらおばあちゃんと入れ替わる様に“病院のなかま”になったのが、かりんちゃんです。

かりんちゃんは生後5~6ヵ月の頃に交通事故に遭い保護された野良猫ちゃんでした。さくらが亡くなった10日後に保護され、さくらに見た目もそっくりなキジトラ猫のかりんちゃんに、さくらの生まれ変わりの様な縁を感じました。

初めは人にも全く慣れていなかった為、愛花ちゃんと仲良くなれるのか心配しましたが、お互いに気が合ったようでケンカすることもありませんでした。こうして愛花ちゃんに妹が出来ました。

休憩室では追いかけっこやかくれんぼをして楽しみ、冬はやっぱりお気に入りのヒーターの前で二匹並んで温まります。そんな光景はさくらの時と変わらないなぁと微笑ましいものがありました。

愛花ちゃんも10歳となり、あまり遊び合ったりはしなくなりましたが、休憩室のお部屋にいる時は、それぞれ好きな所でのんびりくつろいで過ごす二匹でした。



そんな愛花ちゃんにも変化がありました。

スタッフのお姉さんにお世話をしてもらいながらココアやかりんと一緒に病院で過ごしていた愛花ちゃんが、2020年の5月、約10年ぶりに病院の二階の自宅にやって来たのです。

まだ仔猫だったあの時、ここでルイちゃんやハ~ト君に甘えていたこともすっかり忘れてしまったのか、知らない所に連れて来られたみたいにちょっと興奮気味でしたが「愛花、大丈夫だよ~」となだめたら、徐々に落ち着いていきました。

愛花が突然二階にやって来た理由、それは・・・。

実はハ~ト君と突然のお別れをしました。
ハ~ト君の存在があまりにも大き過ぎて、いなくなってしまったことを私自身受け止めきれずにいました。

これまでにも沢山の子とお別れをしてその度に悲しい思いをして来たのですが、スタッフのみんなと一緒に棺の中に思い出の写真やお花をいっぱい入れてしっかりとお別れをした後はそれなりに受け止めることが出来ました。

またルイちゃんとお別れした時はハ~ト君がいてくれたので淋しく悲しい気持ちはありながらも、ハ~ト君の笑顔や可愛らしい姿を見ているだけで癒され、いつもの生活に戻って行くことが出来たのです。

それがハ~ト君とお別れした時は胸にぽっかりと大きな穴が開いてしまい、なかなかその現実を受け止めることが出来ませんでした。

やっぱり動物と一緒にいたい・・・そんな気持ちを主人に相談したら、病院で飼っているココアと一緒に生活してみたらどうかと提案をしてくれました。

ということで、実は愛花が来る前にココアがやって来ていたのです。
そうしてしばらくの間ココアと愛花と一緒に生活して、感じたことがありました。

それは、猫の愛花にとってはただのんびりとくつろげる環境があることが一番しあわせなことのように感じる一方、わんこのココアにとっては今迄のように病院にやって来る動物たちの気配を感じ院長やスタッフがいる中で刺激を受けながら一階でみんなと一緒に生活することがしあわせのように感じたのです。

そうした思いもあり、愛花は二階で私達と共に暮らし、ココアは今迄通り一階の病院での生活に戻ることとなりました。

二階でのんびり過ごす愛花ちゃん。いつ見てもまったりと気持ち良さそうに寝ています。今日も大きなソファーを独り占めしてのんびりと過ごしていました。

愛花は抱っこが苦手です。

「愛花~」と近寄り頭を撫でると目を細め喉をゴロゴロ鳴らして喜ぶのですが、抱っこをすると居心地が悪い様で「降ろして」と嫌がって飛び降りてしまいます。
猫ちゃんにはそういう子もいて、愛花はそのタイプなのでちょっと残念です・・・。

愛花はそんな性格でちょっと距離を置くのが安心するのか、もうひとつのソファーに座る私のところにはなかなか来ませんでした。私はいつも少し離れた位置から、そんな愛花を静かに眺めていました。

でもある日の晩に突然私の足元にやって来たのです。
私を見て「にゃ~にゃ~」と言いながら、ひょいっ!とジャンプして私の隣に飛び乗ったのです。

私のことをじ~っと見つめ「愛花」と名前を呼んで顔を近づけると喉をゴロゴロ鳴らし、頭や顔を撫でるとグイグイ押して甘え、その内に気持ち良さそうに目を閉じて寝てしまいました。

いつも距離を取っていた愛花ですが、本当はこんな風に人に甘えてみたかったのかもしれません。

それからは私の元に来て、ゆっくりと過ごすようになりました。

そんな愛花との暮らしは本当に穏やかで、ハ~ト君を失った淋しさも、愛花の寝顔を見ているだけで少しずつ癒されていくことが出来ました。

愛花もこうして見てみると色々な出来事があったんだなあと改めて思いました。

障害がありながらもすくすくと元気に育ち、病院の仲間のみんなやスタッフのお姉さんたちと一緒に楽しい時間を過ごしてきました。

10年経った今、私達と一緒に二階で暮らすようになりましたが、どの時も愛花なりに楽しい日々だったのではないかと思います。

そしてこれからの毎日も特別な何かがある訳ではありませんが、愛花がのんびりと過ごすことが出来る空間を確保しながら、穏やかに過ごしていって欲しいと思います。そしてうんと長生きしてほしいと願っています。
 
「愛花~、これからも今迄みたいにのんびりと過ごしてね。そしてずっとず~っと一緒にいようね♡」


愛花が病院の仲間になるまでのお話は、「マスダ動物病院エピソード」に載っていますので、そちらも是非ご覧くださいね。

担当 増田葉子・丸澤彩香

 

 

 

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