マスダ動物病院のエピソード
輝ちゃんからの贈り物 3
「輝ちゃんが首輪から外れていなくなった!」
慌てて主人が駆け込んできて、私もその事態を知りました。
それから急いで、二人で輝ちゃんを探し始めました。

 

主人は寒いのにトレーナー1枚だけで、自転車でびゅんびゅん走り回っていました。私は隅から隅まで歩きながら、真っ暗い中、猫に向かって「輝ちゃん?」遠くのバケツに向かって「あ、輝ちゃん!」なんて言いながら探し回りました。
今まで何回も外で同じようにつながれていたことがあっても、首輪から抜けたことなんて一度もなかったのに……。輝ちゃんのことを思うとたまらない気持ちになっていきました。私は本当に輝ちゃんのことが好きになっていたのです。
きっと、今年の6月に亡くなったミルキーがいなくなって淋しかったけれど、輝ちゃんがその分を埋めてくれていたのかもしれません。
風に吹かれていつものように“ぽよよ〜ん”とした輝ちゃん……。輝ちゃんのことが、頭から離れることはありませんでした。

 

それから毎日一生懸命、みんなで探しました。ビラを作り、病院、スーパー、商店などに貼って頂き、新聞の迷い犬欄にも出し、保健所、獣医師会などにも報告をして、輝ちゃんらしき子が来たらすぐに我が家へ連絡が入るように手続きしてもらいました。
しかし、保護したという情報は届かず、この寒い中、食べる物も行く場所もなく、生き倒れてしまっているのではないか……いったい輝ちゃんは、どこでどうしているのかと、毎日輝ちゃんの写真を見ては、語りかけていました。
そうした日々が過ぎても、一向に情報は入りません。
「こんなに探しても見つからないということは、輝ちゃんをとても必要としている人がいて、輝ちゃん自身もそこにいることが幸せなのかもしれない」
私は徐々にそう考えるようになりました。
「今日一日探してみよう。それで見つからなければ、もう輝ちゃんが今いる場所できっとしあわせにしているということなんだ」
とそう心に決め、気になるお宅を一軒一軒訪ねることにしました。

 

一軒一軒、気になるお宅を訪ねて、輝ちゃんの写真を見ながら事情を説明させて頂くと、本当にみなさんが親身になってくださり、とても温かい気持ちになりました。私は思いがけず、輝ちゃんからこんなステキな機会をもらっているのだなぁと思いました。
色々な方に尋ねてみましたが、やはり全く見たという情報はありませんでした。
「もうあとは、輝ちゃんが幸せでありますように……、ただそれだけだなぁ」
私はそう思いながら、家路に着きました。
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