ルイちゃん

 

平成12年3月4日、一人の女性に連れられて一匹のトイ・プードルが病院にやって来ました。どうやらその子は、小さなホタテのフライを丸ごと呑み込んでしまったため、急いで連れて来られたようでした。

ただの小さなホタテのフライだけなら良かったのですが、お弁当の中に入っていたのは、つま楊枝に刺さったベビーホタテのフライ。それをそのまま串ごと呑み込んでしまったということでした。
忙しいお引越しの片付けの最中に、飼い主さんの一瞬の隙をついて、あっという間に丸呑みしてしまったそうなのです。

早速、造影剤などを使ってレントゲンを撮ったところ、確かに胃の中につま楊枝らしき陰影が見えました。しかし驚いたことに、それ以外にも大きな問題が見つかったのです。

それは横隔膜ヘルニアという病気で、胸(肺)とお腹の間の横隔膜が破れ、胃や腸などの内臓が胸腔に入ってしまい、肺が圧迫されて、呼吸が苦しくなってしまうという病気です。
この横隔膜ヘルニアが、生まれつきあったのか、それとも今回のことが切っ掛けで痛みなどに対し、急にあり得ない程の力をお腹に入れるなどして突然起きたのか、レントゲンから区別するのは困難です。

いずれにせよ、この子の命に関わるため、この病気を放っておくことはできません。緊急手術をしなくてはいけない旨を、院長から飼い主さんにお伝えしました。すると飼い主さんが、意外なことを話されたのです。

飼い主さんはバブル崩壊で仕事に行き詰まり経済的にとても苦しい状況にあるため、手術代はおろか診療代も全額は支払うことが出来ないというのです。

しかし、この子がこれから健康に生きて行くためにはどうしても手術が必要であり、また手術をすればそれに伴う治療費が発生します。院長がそのことを時間を掛けてお話させて頂きましたが、飼い主さんとの話し合いは一向に進みませんでした。
このままこの子を返すこともできない、そう思った院長は、ひとつの提案をしました。

それはもし今回の治療を含めこの子を飼うに当たってきちんとした事がしてあげられないのなら、当院で引き取り手術からその後の治療も全て任せて頂く、という事でした。
その場合、後で気が変わって返して欲しいとお願いされてもお応え出来かねるという趣旨のお話をさせて頂きました。

すると飼い主さんから「現在この子以外にも2匹飼っていてその子達のお世話も大変でこれからどうしようかと考えている状況なので、この子に関してはそちらにお願いしたい」とのお返事が返って来ました。
飼い主さんもお辛いながらも、それ以外に選択の道がなかったのかもしれません。

こうしてトイ・プードルのその子は当院で引き取ることとなり、院長にルイちゃんと名付けてもらいました。

早速その晩に手術をし、難しい手術だったにも関わらず術後の回復は予想以上に順調で、ルイちゃんはぐんぐん元気になっていきました。
その後、しばらくの間病院で預かると同時に大切に飼って下さる方を探すことになりました。

ルイちゃんはふわふわの真っ白な毛がとても魅力的で、真ん丸お目目のとっても可愛い男の子。この子なら、きっとすぐに新しい飼い主さんが見つかるだろうと思っていました。
しかし、ルイちゃんにはひとつ難点がありました。

とにかくよく吠える。キャンキャンと甲高い声で、ずっと鳴き続けるのです。

でもそれも考えてみれば当然のこと。突然知らない所に連れて来られて、自分の身に何が起きたのかも分からず、お母さんの姿は見えなくなり声すら聞こえなくなってしまったのです。今まで他のワンちゃん達と一緒に暮らしていたのですから、淋しさから鳴き続けてしまうのも無理のないことでした。

そんな様子を見て「鳴けば誰かが来てくれると思って更に鳴く子になると困るから、なるべくそばに寄らないように」と、院長(主人)から“禁止令”が出てしまいました。スタッフは主人の言うことを忠実に守っていましたが、私にはそれがどうしても出来ませんでした。

ルイちゃんは突然置いて行かれた不安でいっぱいで、鳴くなと言われてもそれは無理だと思い、とにかく「大丈夫だよ」と一度しっかり抱きしめて安心させてあげたかったのです。それをしなければルイちゃんの気持ちはどうにも収まらないと思ったのです。

そこで、主人がいない時にこっそりと犬舎に行きました。そして思い切り抱きしめ、こう伝えたのです。

「ルイちゃん大丈夫だよ。 何にも怖くないからね。ルイちゃんを可愛がって幸せにしてくれる人を絶対に探すから待っててね」と。

その後、色々な方に声を掛けてみました。幾つか希望が持てそうなお返事を頂くものの「家族の内の誰かが反対で・・・」などの理由で一向にまとまりませんでした。
それなら病院で飼えないかと思い主人に相談してみたのですが、「既に病院には事情があって飼っている子が他にも何匹かいるから難しい、無理だ」と言われ、確かにそうだなあと私も納得しました。

納得しつつも、病院が駄目なら二階の自宅ではどうだろうかと思い、一度試しに連れて行ってみました。
するとルイちゃんは嬉しそうに部屋の中を飛び跳ねているのですが、15歳になる高齢の先住犬ミルキーはそんなルイちゃんから距離を置き、不安そうな目をして近付こうとはしませんでした。
ミルキーにとって明らかにストレスがかかっている状態でしたので、やはり二階で一緒に住むということも諦めざるを得ませんでした。

「でも、どうしてこんなに可愛い子なのに話しがまとまらないんだろう」と、不思議でなりませんでした。

それから何ヶ月か経った頃、元々おとなしくて優しい性格のルイちゃんを、試しに一度だけボランティア活動に連れて行ってみないかと主人に提案してみました。ルイちゃんには癒しのお仕事がピッタリだと思ったのです。
しかし活動に参加するにはそのための高い基準があるため、最初主人は首を縦に振ってくれませんでした。

それでも諦めず切れず、ある時再び聞いてみると「行ってみようか」という返事が返ってきて、そこで初めて静岡市獣医師会が行っている『ひだまり倶楽部の動物ふれあい活動』に参加することとなりました。

会場に着くと、お年寄りの皆さんがルイちゃんを見るなり満面の笑みで大きく手を広げ「こっちにおいで~」と手招きするのです。そして、お膝の上でじっと大人しくしているルイちゃんのことをとても愛おしそうに見つめ、「ルイちゃん、ルイちゃん」と何度も呼びかけて下さいました。

ルイちゃんも最初こそ少し緊張しているようでしたが、どの人の所に行っても問題なくじ~っとおとなしくされるがままで、皆さんが名前を呼んでは背中を撫でてくださるので気持ちが良くなってきたのか、最後はとろんとした目で眠り始めたのです。

そんなルイちゃんを見て、私は嬉しくてたまりませんでした。ルイちゃんの様子を遠巻きに見ていた主人も「ルイちゃん、いいね」と目で合図を送って来ました。そして帰りの車の中で、主人が「やっぱりルイちゃんは家で飼おう」と言ってくれたのです。

「ああ、どんなに飼い主さんを探しても見つからない訳だ。飼ってみたいとお話を頂いても話がまとまらない訳だ。ルイちゃんは大切な“病院の仲間”になるご縁のワンちゃんだったんだ」と、今までの流れにやっと合点が行きました。

ルイちゃんは、こうしてこの日から晴れて大切な“病院の仲間”となりました。

晴れて大切な“病院の仲間”となったルイちゃんは、スタッフにとても可愛がってもらって、お散歩に連れて行ってもらったりボールを投げてもらっては嬉しそうにピョンピョン跳ねながら取りに行ったりと、楽しそうに過ごしていました。
それでも診療終了後、人気がない犬舎で淋しそうに鳴くルイちゃんの事が、いつも気になっていました。

そんな思いもあり、ルイちゃんと二階の自宅で一緒に暮らせないかと考えていたのですが、それまで可愛がってくれていたスタッフの思いもあるので相談してみたところ、「元々プードルは室内で家族と過ごす方が幸せだから」と言って、スタッフも快く賛成してくれました。

ミルキーが他界してから一年後、ルイちゃんは二階で私達と一緒に暮らすこととなりました。

こうして私達との生活が始まったのですが、淋しがりやのルイちゃんは、とっても怖がりさんでもありました。

部屋の中でも風に揺れるカーテンが怖いのか、さほど気になる位置にカーテンがある訳でもないのに、お水を飲む時でさえもカーテンが風に揺れていると爪先立って身体を精一杯伸ばし、ビクビクしながら飲んでいたり。
ソファーに乗る時も、ソファーの手前に行くまでの短い距離を行きつ戻りつしながら行き、またそこからかなり時間をかけて“エイ、ヤー”っと、勇気を振り絞ってソファーに飛び乗るといった具合で、最初いったい何をしているのかさえも分からない意味不明な動きでした。

しかしそんなルイちゃんも、ひだまり倶楽部での活動では大活躍でした。
体重が軽くて大人しいルイちゃんは、誰のお膝の上でもじっとしていられるので、どこに行っても人気者でした。

参加している仲間のみんなと一緒に、お年寄りだけでなく施設の職員の皆さんや、ホスピスでは日頃お疲れの看護師さん達にも声を掛けて頂き、みなさんを癒すお仕事をいっぱいしてくれました。

2歳で初めて活動に参加させて頂き、数少ない一芸も披露させて頂きました。 
途中から弟分のハ~ト君も活動に加わり芸をするようになったのですが、ルイちゃんが何日もかけて覚えた芸をハ~ト君はあっという間に覚え、身体が大きく見栄えのいいハ~ト君の方に皆さんの注目が集まるようになっていきました。
それでもルイちゃんなりに頑張る姿が本当に愛おしく、活動が終わると、いつも「ルイちゃんよく頑張ったね、本当にありがとう」と、思わず抱きしめずにはいられませんでした。

ルイちゃんと言えば、仲良しのシーズー、輝(てる)ちゃんとのお話は欠かせません。
(下記の輝ちゃんとのお話は『病院の仲間たち 輝坊』より抜粋しています)

ルイちゃんと輝ちゃんは、初めて会ったその時からとても仲良しで、いつもはとても大人しいルイちゃんも輝ちゃんを相手にじゃれあい、もみくちゃになって本当によく遊びました。
車通りが少ない静かな日曜日の昼下がり、咲き揃うお花を背に、いつも以上に伸び伸びと元気にたわむれ遊ぶ愛くるしい二匹の姿を見ているだけで、日頃の疲れが吹き飛んでいくようでした。

また輝ちゃんがまだ元気だった頃は、ルイちゃんと輝ちゃんを連れてよくお散歩に行きました。 輝ちゃんがルイちゃんにピッタリくっつき、仲良く二匹が並んで歩く姿は、まるでちっちゃな子供が大好きなお友達と手を繋ぎ、ニコニコと嬉しそうに歩く姿に似ていて何とも愛らしく、ただその姿を見ているだけで心が癒されました。

また誰もいない広い駐車場の隅っこに座って、青い空を見ながらルイちゃんと輝ちゃんをかわりばんこに抱っこして、よく話をしました。

ルイちゃんを抱っこしていると、輝ちゃんはそばでぽよよ~んと可愛い顔をしてじっと待ち、また輝ちゃんを抱っこすると、ルイちゃんが風に吹かれながら遠くを見つめ、じ~っと静かに待っているのです。
特別な何かをするという訳でもないのですが、ポッカポカのお日様の下、時が過ぎるのも忘れ、のんびり風に吹かれ過ごす穏やかなこのひと時が私は何より好きでした。(抜粋ここまで)

穏やかな日々の中、新しい仔犬とのご縁があり、ある日ルイちゃんはお兄ちゃんになりました。

突然やって来た仔犬の名前は『ハ~ト君』、生後5か月のビション・フリーゼの男の子!

やんちゃ盛りで、エネルギーが有り余っているハ~ト君は、静かに横になって寝ているルイちゃんにちょっかいを出してばかり。

でもそれもそのはず。兄弟がいたハ~ト君は、今まで寝ている時以外は一日中、兄弟と転げ回って遊び続けていたのですから。
それが突然兄弟から離され、連れて来られた所に丁度いい遊び相手がいれば、“遊ぼう、遊ぼう!”と言って、ちょっかいを出しても無理はありません。

しかし毎日静かに暮らしていたルイちゃんにとって、ハ~ト君の存在はなかなか大変です。

ハ~ト君はただ遊びたいだけなのですが、まだ噛む加減もしっかり出来ていない時期なのできっと興奮し過ぎてルイちゃんを強く噛んでしまうこともあったのだと思います。

最初は我慢していたルイちゃんも、加減を超えたことをされると瞬間的に“ギャウ”と言って怒るのですが、迫力に欠けるのかハ~ト君にとってはあまり威力がないらしく、何度もじゃれていくのです。それがルイちゃんのストレスに・・・。

そこでハ~ト君のエネルギー発散のために私も中に入り、引っ張りっこやボール投げをすることに。
するといつも大人しいルイちゃんが、ハ~ト君がくわえるおもちゃの端を噛んで一生懸命に引っ張るのです。

力の強いハ~ト君には敵わないのですが、ハ~ト君の出現により、こうして楽しいひと時を過ごすことはルイちゃんにとっても刺激があって、とてもいいことだったと思います。

最初はどうしたら有り余ったハ~ト君のエネルギーを発散し、ルイちゃんに負担がかからない様にできるのか、それを考えるのは大変でした。
でも丁度、仔犬のしつけ方の勉強をしていた時期だったので、日々が実践でとても勉強になりました。

そして何より、大人しいルイちゃんが夢中になってハ~ト君と一緒に遊ぶ姿を見られたことが嬉しくて、そんなひと時を過ごせることも、とてもしあわせなことでした。

ハ~ト君は色んな意味で、あっという間にルイちゃんを追い越していきました。

その頃のことを書いたブログはこちら。是非ご覧くださいね。


あっという間にルイちゃんを追い越して行ったハ~ト君は、ルイちゃんに対して、何でも張り合うようになっていきました。

お散歩に行く時も、ルイちゃんよりも一歩でも前を歩こうとしたり、私がソファーに座ろうとすると、ずっと遠くから走って来てソファーに飛び乗り、私の膝の上を占領してルイちゃんの邪魔をするのです。
それでいてルイちゃんがソファーに飛び乗ると、自分から飛び降りてルイちゃんに譲るのです。

色々考えている頭のいいハ~ト君と、自分は敵わないと分かっているルイちゃんの関係は、とても興味深いものがありました。

何でも力ずくで自分の思い通りにしようとすることは、決してしてはいけないことですが、頭を使って駆け引きをして、二匹で押したり引いたりの加減を上手にやっている時は、そこに介入せずに見守るようにしました。

そして“これはまずいな”と思うことがあった時は、そうならないための環境を整えたり、必要な時はルイちゃんを立て加勢するなど、こちらも色々考えなら対応をしていきました。

ルイちゃんは、力がついて行くハ~ト君には敵わないことを悟ると、張り合わずに受け入れることにしたようです。そんな風にルイちゃんは、根っから大人しくて優しい性格なのです。

ですがたった一度だけ、余程癇に障ることをされたのでしょう。怒りが爆発したように切れて怒り、それに対して負けていないハ~ト君がルイちゃんに襲い掛かり、聞いたこともない声を出し合って、喧嘩が始まったことがありました。

“これは大変”と、私はハ~トを抱き上げ、たまたまそこに居合わせた主人がルイちゃんを抱き上げてくれました。すると“ぽたり”と床に血液が落ちて・・・。ガ~ン!!!
ルイちゃんの歯が抜けて、歯茎から出血してしまったらしいのです。本当に驚きました。

それからは二度とそんなことが起きないように、二匹が近くにいる時はより一層注意して見るようになりました。

そんなハ~ト君ではありますが、ビション・フリーゼという犬種柄、温厚で明るく、わがままを言ったり、嫌なことをされると噛んで抵抗するような、そんな激しさは全くありません。

とは言うものの、この頃のハ~ト君は遊びたい盛りでしたので、沢山遊んで発散させてあげることが、ルイちゃんの負担を軽くすることにもなるので、私も一生懸命遊ぶようにしました。

それにハ~ト君は賢いので、ここでは自分が引いた方がいいなという判断もできたので、大人しいルイちゃんと日々学んでいくハ~ト君との関係は、いい距離を保ちつつ、穏やかなものになっていきました。

そんなルイちゃんとハ~ト君を連れて、時々お出掛けをしました。
主人と一緒に嬉しそうに歩くハ~ト君の後ろを、ゆっくりとしたペースでルイちゃんと一緒に歩く穏やかな時間が、私はとても好きでした。

「ハ~ト、行こうかぁ」と主人がリードを持って準備を始めると、ハ~ト君はそれを見て大はしゃぎ。

「お父さん、どこかに行くの~?」と目をキラキラさせながら、部屋の中を走り回ります。
その様子を見てルイちゃんもウキウキ顔で主人に駆け寄ります。

たったの一度だけですが、ルイちゃんとハ~ト君を連れて、一泊旅行に行ったことがありました。

ハ~ト君は初めての場所で好奇心いっぱい!
あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。

一方ルイちゃんはいつも通り、おっとりと静かなままで・・・。
食事時は意外にもハ~ト君も周りのワンちゃんの様子を静かに眺めていたり・・・。

ハ~ト君は朝からおもちゃをくわえて走り、ルイちゃんはその光景を立ったまま静かに見ていました。

自宅以外の空間で、昼も夜も愛犬たちと一緒の時を過ごす。ホテルに一緒に泊まって、そんな時間を過ごしたことがない私達にとって、それは刺激的でとても楽しく、本当にしあわせな時間でした。

14歳になっていたルイちゃんと、こんな素敵な時間をあと何回過ごすことが出来るのか分からないけれど、「また絶対に一緒に来たいね」と、主人と話したものでした。

ルイちゃんはスタッフのみんなにも大切にしてもらいました。お姉さん達がシャンプーとカットをしてくれるのですが、いつも可愛らしく仕上げてもらって本当に助かりました。

その時の様子はこちら。


ルイちゃんの大切なお仕事、それは静岡市獣医師会主催のひだまり倶楽部で行っている、ホスピスや老人ホームへ慰問するボランティア活動です。

会員お揃いの黄色いバンダナを付けて、「さあ、出発です!」
夏には浴衣を着たり、クリスマスシーズンにはサンタさんになって訪問しました。

ルイちゃんのお得意の芸は、太鼓を“鼻で叩く”と“手で叩く”です。
芸達者なハ~ト君は色んな芸が出来るのですが、ルイちゃんはたった一つのこの芸だけで、13年間頑張り続けてくれました。

一番面白かったのが、ルイちゃんが太鼓を叩いた後、お年寄りの皆さんに目をつぶって頂いて、その間にルイちゃんとハ~ト君が入れ替わり、そして目を開けて頂く。

すると小さかったルイちゃんが、目を開けたら大きくなっているので、お年寄りの皆さんが驚いて「わ~!」と声を上げられるのです。
頭の格好は全然違うのですがルイちゃんもハ~ト君も真っ白な毛で覆われているので一瞬騙されてしまう方もいらっしゃるのですよね!

そんな光景をご覧になって、施設の方も一緒に大笑い!
ほんわかとした、とても楽しい癒しの時間となりました。

「ボランティアに行くよ~!」と主人が言って準備を始めると、ハ~ト君と一緒に弾むような足取りになって張り切っていたルイちゃんは、亡くなる2か月前までこの活動を頑張ってくれました。

そんな頑張り屋のルイちゃんは、トイレの失敗をしたことがありません。一日、朝と晩に一回ずつ、しっかり出来ていました。
それがある日突然、全く違う場所で“ちー”と、片脚を上げて始まってしまったのです。それまであまりにもしっかり出来ていたので、まさかそんなことになるとは思ってもいませんでした。

それからは毎回違った場所に、当たり前の様な顔をして、お粗相をするようになりました。

ルイちゃんのおしっこの量はまだ簡単に拭ける量なのでいいのですが、なんとそこに向かって、ハ~ト君がおしっこをかけるのです。ハ~ト君のおしっこの量は半端なく、シャワーでお水を掛けたように広がってしまうのです。それが日に何度も。

ハ~ト君はルイちゃんがしっかり決められた場所で出来ていた時は、100%ミスなく出来ていた子なので、ルイちゃんにオムツをつけることにしました。

すると、ハ~ト君はルイちゃんのおしっこに対してマーキングをしていたので、また元の決まった場所でおしっこをしてくれる様になり、トイレの問題は無事に解決することが出来てほっとしました。

ハ~ト君と一緒にお散歩をしていると、ハ~ト君の子供だと言われるほど、いつまでも愛らしいルイちゃんがお粗相をしてしまう年齢になってしまったなんて・・・。

耳も遠く、目も見えにくくなり、お粗相までして。そして時々出る咳も気になるし・・・。

14歳になったこの頃、“ルイちゃんは、あとどのくらい生きられるんだろう。あと、どのくらい一緒にいられるのかなぁ”と、ふと思ってしまうことが増えて来ました。

沢山の動物達とのお別れを経験し、最期のお別れの辛さ、淋しさを味わって来た私は、またあの辛いお別れが来るんだと、どうしてもそのことが頭をよぎってしまうのです。
でもだからこそ、残された日々も楽しく穏やかに過ごして行きたいと思っていました。

どこにいても、ずっと私のことを目で追い見つめている可愛い瞳。
一人でお留守番をするのは淋しいと鳴いていたけれど、ハ~ト君が来てから一緒に静かにお留守番が出来るようになったルイちゃん。

スタッフとのお楽しみ会で、ゲームの輪の中、いつの間にか眠り始めた愛らしいその姿。

わがままを言ったことがなく、ボランティアの活動で、急にお年寄りに手を強く引っ張られた時でさえ、怒らず身を任せていたルイちゃん。

そんなルイちゃんが、ハ~ト君が太鼓を叩く芸をしていた時、突然「僕もやる!」と私の膝の上から降りようと、動き始めたことがありました。

いつもじっとしていて、自分から何か積極的にすることなどほとんどないルイちゃんが、13年間続けて来た活動の中で、自分のやるべきことをしっかり意識していたことに、この時とても驚かされました。

すごいぞ、ルイちゃん!!

初めて会ったあの時は、こうして一緒に暮らすことになるとは思ってもいませんでした。

ルイちゃんの里親さんを探し続けていた中、お試しで触れ合い活動に参加した時、ルイちゃんの優しさでお年寄りの皆さんがとても癒されたようでした。
それが認められ、ルイちゃんはホスピスや老人ホームを慰問する『ひだまり倶楽部』のメンバー入り出来たことで“病院の仲間”となることができました。

それは大人しいルイちゃんが、自分で掴んだしあわせです。
そしてその二年後に我が家で共に暮らすことになり、13年もの長い月日が流れていきました。

愛らしいルイちゃんが足元にいるだけで心が安らぎ、一緒にお出掛けをした時にルイちゃんの楽しそうな姿を見て心が弾み、夜お布団に入ってルイちゃんを抱きしめながら、しあわせを感じることが出来ました。

こうして共に過ごした年月は、私達にとって優しさに溢れた本当に大切なものとなりました。いつまでも、この優しさに溢れた時間が続いてくれたらいいのですが、無情にもその時はやって来たのです。

このお話の続きは「マスダ動物病院エピソード」に掲載しておりますので、是非ご覧くださいね。

担当 増田葉子

 

 

 

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