マスダ動物病院のエピソード
親愛なるジョン君へ
静岡市では、毎年家族の一員として共に暮らした大切な動物達とお別れをされた方が一堂に集い、慰霊祭を行っています。その中で当院の飼い主さんのKさんが、代表で慰霊の言葉を述べて下さいました。
愛犬のジョン君に呼びかける様にお話されるKさんの言葉に、20代だと思われる男性の方が何度も手で口を塞ぐようにして嗚咽をされていらっしゃいました。また会場にいらした多くの方々が涙され、想いはみな同じなのだなあと改めて思いました。
Kさんの慰霊の言葉を沢山の方にも読んで頂きたくて、Kさんに当院のホームページに載せさせて頂きたいとお願いをしてみたところ、亡くしたジョン君との思い出がまたひとつ増えて嬉しいですと、快諾して下さいました。Kさん、本当にありがとうございました。
以下にジョン君への慰霊の言葉を載せさせて頂きたいと思います。

 

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『親愛なるジョン君へ』

15年前の三月のまだ寒い日に、あなたは三ヶ月のラブラドールの子犬として我家にやってきました。
当時5歳の私が病気がちで、何とか元気づける方法はないかと両親が考えて、あなたを飼うことに決めたのです。しかし、それは想像以上に大変なことでした。

まず、名前を決めなければなりません。
家族がひとつずつ考えた名前を呼んでみて振り向いた名前が「ジョン」でした。そのシンプルな名前はあなたにぴったりでした。
ラブラドールは頭がいいっていうけれど、「そんなのうそだよね」ってみんなで言うくらいヘンテコリンなわんこ。

散歩が大好きだったジョン。子犬の頃は私と姉、兄の三人で行けていたのに、大きくなると力も一層強くなって、お母さんが手袋をはめて太いリードをしっかり握り締めてあなたに引っ張られながら散歩に行きました。
股関節形成不全であった為、散歩は15分と短い時間でしたが、「ジョン、散歩行くよ!」と言うと、いつもすぐに立ち上がって、先回りして待ち構えていました。
散歩の途中では、誰に会ってもすぐにお腹を見せて服従のポーズ。「あなたは、もう少しプライドを持ちなさいね!」って人から言われたこともありました。
そして、ジョンを通してたくさんのわんこ友達もできました。オスなのに、いつもメスと間違えられて他のワンちゃんに追っかけられて困っていたね。

そんなジョンの得意技は、ペットボトルのふた開け。ラベルをはがし、わずか数秒でいくつものペットボトルのふたを開ける立派なエコ犬でした。
また、大食漢で早食い! ドッグフードは噛まずに8秒で完食! ガーデニングの好きなお母さんの草花を薙ぎ倒し、おじいちゃんが大切に育てていた畑の大根やきゅうりを全部食べてしまって怒られる。
海に連れて行けば、片端から陸に上がった魚を食べてゲホゲホしたり……大好物は、やっぱりシーチキンとスイカとバナナ。台所でプシュ!とシーチキンを開ける音がしただけで、どこにいてもすぐにすっ飛んできたね。
また、お祭り大好きわんこで、子ども会のお神輿の「ワッショイ! ワッショイ!」が聞こえてくると大興奮! 自分もお神輿の周りを一緒について歩きましたね。
いたずら好きで甘えん坊、寂しがりやでどこまでも優しかったね。私が落ち込んでいる時もそっと傍に来て、私の手をぺろぺろ舐めて慰めてくれました。あなたは本当にどんな時も優しかったね。

あれは、ジョンが11歳の頃だったかな。血便が出たので動物病院に連れて行くと「この子、目のほうが気になるよ」と先生に言われました。
検査の結果、悪性のメラノーマという瞼の癌だということが分かり、一刻を争うということで即手術。
後から分かったことでしたが、三ヶ月以内に亡くなる子が八割いると聞き、びっくり! なんと残りの二割の中に入ったんだよね。すごいね!

それから、その先生のことが大好きになり、病院に行くのに喜んで行く犬も珍しい。
注射をしても尻尾を振って帰りたがらない。

ジョンの足腰が弱くなってくると、お父さんにバリアフリーの手作りのスロープを作ってもらったね。
最初はおっかなびっくりだったけど、そのうちに上手に出入りするようになりました。

そんなあなたも次第に年をとり、時々急に具合が悪くなって何度真夜中に先生に往診に来て頂いたことか! 「人間だって今では夜中にお医者さんに診てもらえないから、ジョンは幸せだね」って皆で話してたね。ジョンも「先生、ありがとう!」っていつも思っていたよね。

でも、今年の夏の暑さは異常で老犬のジョンにはきつかったんだよね。6月のある朝、突然よろめいてケイレン! すぐに先生に診て頂いたら熱中症ということで、それから二週間すぐに発作を起こすようになってしまい、家族で寝ずの看病をすることに。
めったに帰ってこない兄も土日に東京から帰省して、もう歩けなくなったジョンは上手に兄に抱っこしてもらって外へトイレに連れて行ってもらったね。
しかし、体調を崩したお母さんの為にあとの一週間を病院で診てもらうことになりました。
入院する前の日、大好きだったおばあちゃんの家の前まで最後の力を振り絞って時間をかけて会いに行ったね。途中で何度も立ち止まって動けなくなったけど、それでもがんばったね。

ある日曜日の夜、いつものように面会をさせて頂いていると、ジョンの様子を見て最期の時が近づいているかもしれないと察した先生の奥様が、「一度、ご家族の皆様のいるお家に戻って楽しい時間を過ごされたらいかがですか?」とおっしゃって下さり、私たちは即決でジョンを家に連れて帰ることに決めました。

両親がベッドを作りに家に帰っている間、私は一分一秒でもジョンと一緒に居たかったのであなたの傍に残りました。

どれくらい経ったでしょう。両親が迎えに来るまでとても長い時間のように思えましたが、その間にジョンがこのまま終わってしまうのではないかと思うときが何度かあり、私は必死で「ジョン君、お家帰れるよ。お家帰りたい?」と呼びかけると、ジョンは力を振り絞って「ウンウン」と頭で頷く仕草をしてくれました。
夜の8時にお家につれて帰って、二時間後ジョンは大きな声で「ウォンウォン」と何度も吠え、私たちにその時が来たことを教えてくれました。

あなたは、私の弟として我家に来て、私より先に年をとり、私が成人するのを見届けて安心したかのように天国へと旅立ちました。

学校や会社から帰ってくる私たちを出迎えてくれる姿がもう見られないと思うととても寂しいですが、自分の役目を立派に果たしたあなたに私たち家族全員から感謝状を贈ります。

本当にありがとう。
そして、ずーとずっと大好きだよ。

 

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