第64回
【知って得する動物の病気の豆知識 その60】
「皮膚糸状菌症」
今月は様々な皮膚病の中から、犬・猫・うさぎ・ハムスター等(ヒトにも)に発生する真菌(カビ)症、特に真菌のなかでも糸状菌と言う真菌によって起こる皮膚糸状菌症についてお話し致します。
(真菌には糸状菌と酵母菌の二種類があります。※糸状菌とは、パンに生えるアオカビや人の水虫の原因菌である白癬菌に代表される糸状構造を持つ真菌の一群であり、一方、酵母菌は、ビールや味噌を造る時の酵母やパンのイースト、あるいは皮膚や粘膜に皮膚病を起こすカンジダなどに代表されるような、顕微鏡で球形や卵型に観察される真菌の一群です。)

 

 

■原因

 

真菌(糸状菌)による皮膚への感染。代表的な糸状菌を以下に示します。
・Microsporum (以後M.とします) ・canis (ミクロスポーラム カニス)
・M.gypseum(ミクロスポーラム ギプセウム)
・Trichophyton (以後T.とします) mentagrophytes (トリコヒートン メンタグロファイテス)

他にも、皮膚病を起こす糸状菌は様々ありますが、この3種の糸状菌が原因菌のメインとなります。
ちなみに、犬の皮膚糸状菌症の原因菌は約70%がM.canisであり、約20%がT.mentagrophytes、約10%がM.gypseumと言われており、また猫の皮膚糸状菌症の原因菌の約99%がM.canisと言われています。

 

 

■症状

 

症状には以下のようにいくつかありますが、皮膚糸状菌症以外の他の原因による皮膚病でも、同様の症状を示す事がありますので、注意が必要です。

 

●脱毛:糸状菌は感染した後に皮膚や毛根を伝って同心円状に広がって行く傾向があるので、初期は小さな円形の脱毛が徐々に円形を大きくしながら感染を拡大して行きます。円形の脱毛部とその周りの毛の生えている境目が糸状菌が一番盛んに増殖している部位となります。(円形に広がる理由と境目が一番糸状菌が増殖している理由は、山火事を想像していただくと分かり易いかも知れません。)ただし、日にちが経つと円形同士が融合し、島状、あるいは地図状となってくることもあります。
●ふけ:正式には鱗屑(りんせつ)と言いますが、かさかさしたふけのような物が、特に脱毛部と発毛部との境目に発生する事が多いです。
●赤味:脱毛部の地肌が赤味を帯びたり、時間の経過とともに色素沈着をおこしたりしてくる事があります。
●動物同士(ヒトを含みます)への伝染:犬同士、猫同士に限らず、犬から猫へとか、場合によっては動物からヒトへ感染してしまう事もまれにあります。したがって、一緒に生活している動物の皮膚に何かいつもと違う異常を見つけたら、早めに動物病院で診察を受けて下さい。
●痒み:様々な皮膚病の中ではそれ程激しいと言うほどではありませんが、ある程度の痒みを伴います。ただし、細菌等の二次感染が起きた場合などは、痒みが激しくなる事もあります。
●感染年齢:犬・猫・ヒト関係なくあらゆる年齢で起こり得ますが、一般的には、幼い(若い年齢)および老齢のほうが感染しやすい傾向があるようです。これは皮膚の免疫力の違いによるものかもしれません。
●診断:診断は以下に示します獣医師の慎重な診察によって行われます。
  • 視診:典型的な病変の場合、その部をよく観察する事で、ある程度推察することができます。
    もちろん見ただけでは確証は得られないので、視診で推察した後は確定のため以下の検査をします。
  • 顕微鏡検査:毛を数本、あるいはふけ(鱗屑)を少量とって直接顕微鏡で糸状菌がいないか検査します。糸状菌の種類によっては顕微鏡でみつけにくいものもあります。
  • 培養検査:皮膚糸状菌を特異的に培養できる専門の糸状菌培地があります。
    培養の結果が出るまでに7〜10日ほどかかりますが、一番検出率の高い信頼できる検査なので私自身、好んで行う検査です。
  • ウッド灯検査:暗室でウッド灯と言う特殊な紫外線をあてる検査です。M.canisであった場合蛍光色に光ります。
    しかし、他の糸状菌は蛍光色を発さない点と、糸状菌と全く関係ない単なるフケが蛍光色を発してしまうなど正確性に少し欠ける点が短所としてあるため、私の病院では行っておりません。

 

 

■治療

 

治療法には以下のようにいくつかあり、獣医師により選択されます。
・抗真菌の内服薬(一番効果が期待できる方法で全ての治療の基本となります)
・抗真菌の外用薬
・抗真菌のシャンプー

 

 

今月は、様々ある皮膚病の原因の1つである真菌による「皮膚糸状菌症」についてお話し致しました。
皮膚病の原因としてはけして多い原因というわけではないかも知れませんが、逆に決して珍しい訳でもありません。
今回「皮膚糸状菌症」のことを書こうと思ったのは、ヒトに感染する可能性がある(人畜共通感染症)皮膚病もあるのだと言うことを皆さんに知っておいていただきたいと思ったからです。
必要以上に心配する必要はありません。ただ、動物の皮膚(皮膚のみならず全ての部位)に何かおかしいと感じることがあったら、早めにかかり付けの獣医師に相談してください。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。

 

 

先月号の動物病院便り「輝ちゃんの闘病物語」を読んで下さった皆様へ……。
先月号でご紹介させて頂きました本院のシーズー「輝ちゃん」は先月号の原稿をプチアミ様に送った翌日のH18年9月18日に残念ながら息を引き取りました。4回目の心臓発作でした。
先月号を掲載後、沢山のはげましの声を頂き、本当にありがとうございました。
輝ちゃんは最期まで頑張りました。病院スタッフ共々寂しく悲しい時を過ごしましたが「私達としてはやれる事を最期まで一生懸命やったし、輝ちゃんも生きられる限り一生懸命生きぬいた」と思えるようになり、少しだけ心が楽になりました。
本当に、皆様の暖かい応援、ありがとうございました。
スタッフ全員(輝ちゃんも)を代表して、お礼の言葉とさせて頂きます。
本当に輝ちゃんからは沢山の事を教えられ、沢山の物をもらいました。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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