第53回
【知って得する動物の病気の豆知識 その49】
「嘔吐(吐き)」
今月は嘔吐という症状についてお話し致します。
日頃の診察の現場でも、「昨晩から何回か吐いてしまったのですけど・・・。」といった嘔吐の症状で来院されるケースは結構多いものです。
ここで「嘔吐の症状」と書いたのは、嘔吐は病名ではなく、何らかの病気の一つの症状にすぎないからです。
単純に「吐いているから吐き止めを注射すれば良い」という訳ではありません。
嘔吐の症状を現わす病気はとてもたくさんあり、胃腸に何らかの問題がある場合もありますが、胃腸以外の病気によって起こる嘔吐もあります(後述します)。
その時の動作は、一般的にお腹を何回か「ゲボッゲボッ」っと動かした直後に「ゲ−」と胃内容物あるいは胃液を吐き出します。胃液は強酸性なので吐き出した物のpHは低い(酸性)です。
一般的原因には生まれつき食道が狭くなっている場合(先天的な異常)や、生まれつきには食道は正常だったのにその後に食道炎や食道が傷つくことにより食道が狭くなってしまう場合(後天的な異常)があげられます。その他にも食道を動かす神経の麻痺等、神経の異常によるものもあります。
吐出は嘔吐と違って、一般的には食後すぐに吐き戻すことが多く、また、嘔吐の時のようにお腹を動かす動作もほとんどありません。吐いた物は胃液を含まないのが普通なのでpHは中性です。
吐き出されるものは、ほんのわずかな白い泡か、量が少ないので本人が飲み込んでしまいます。
この喀出を嘔吐と間違えて「吐いたのですけど・・・」と来院されるケースが比較的多く見受けられます。
獣医師の立場から言わせて頂くと、喀出の場合、泡を吐いたという結果が重要な事柄ではなく、その原因となる咳をしていることが重要なことなのです。したがって、もしわかれば「吐くんです・・。」ではなく「咳をするんです・・。」と伝えて頂けると診断するのに役立つのです。一般的に、咳の原因となる病気は、喉(のど)の病気、気管や気管支あるいは肺の病気、フィラリアや僧帽弁閉鎖不全症(第20回動物病院だよりを参照して下さい)等の心臓の病気等が考えられます。
胃腸炎や胃潰瘍あるいはウィルスや細菌による感染症等があげられます。胃腸に炎症を起こす代表的なウィルス及び細菌はジステンパーウィルス・パルボウィルス・コロナウィルス・サルモネラ菌があります。
胃腸内異物・腸重責・胃捻転・幽門(胃から腸につながる部分)の狭窄・胃や腸の腫瘍等があげられます。これらの病気の多くは手術等の外科的な治療が必要となります。
腎臓の働きが悪くなると血液中に老廃物が蓄積し、「尿毒症(第26回動物病院だよりを参照して下さい)」になると、その老廃物が脳にある嘔吐中枢を刺激して嘔吐が起こります。腎臓の働きが悪くなる原因として、腎臓そのものが悪くなる場合と(第26回動物病院だよりを参照して下さい)子宮蓄膿症(第16回動物病院だよりを参照して下さい)等の病気により二次的に腎臓の働きが悪くなる場合があります。また肝臓の働きが悪くなった場合も同様です。
吐くと言っても、胃腸の病気以外にもこのような病気が原因となっているケースもあり、治療法も全く違うので正確な診断が求められます。
様々な毒物を摂取する事による嘔吐。この場合、毒物をなるべく体外に排出させるために、嘔吐を止める治療をしてはいけません。危険な毒物の場合、胃洗浄等の処置も必要になる場合もあります。
急性膵臓炎による腹膜炎や胃を圧迫する程の大きな腹腔内腫瘍。心配する事のない原因としては動揺病(車酔い)でも嘔吐することがあります。
同じ「嘔吐」という症状でも、ジステンパーやパルボウィルス感染症が根本原因である場合は死亡率が高く、また、腸閉塞などでは、外科的治療(手術等)が必要です。
更に中毒の場合は、吐く症状を止めるような治療をしてはいけません。様々な原因があり、治療も様々です。心配しなくてはいけない病気から、あまり心配が必要ない病気まで様々です。
A:嘔吐以外に他の症状を併っている場合:食欲減少あるいは廃絶・元気がない・嘔吐だけでなく下痢も併っている等、嘔吐以外に他の症状が1つでもある場合。
B:嘔吐以外に他の症状はない場合でも、1日に何回も(目安として4〜5回以上)嘔吐する場合。
C:嘔吐以外の他の症状はなく、嘔吐の回数も1日に1〜2回程度ではあるが連日(目安として2〜4日以上)続く場合。
D:子犬・子猫や、老犬・老猫の場合は基本的な体力が低下していることも考えられるのでA〜Cに当てはまらなくても早めに!
E:持病を持っている場合:糖尿病や慢性腎不全等の持病を持っている場合、単純な嘔吐でも持病を悪化させてしまう引き金になることもあり得ます。また、糖尿病でインシュリン療法を行っている場合、低血糖や逆に高血糖の兆候として嘔吐する事もあります。
嘔吐と言う症状は様々な原因があり過ぎて、今回のお便りで全てを語りつくすことはできません。
しかし、飼い主さんとして「これだけは知っておけば得をする」といった項目を中心にお話し致しました。また、嘔吐の原因として、ウィルスによるものは定期的な混合ワクチン接種で予防できますし、胃腸内異物に関しては動物のいる環境に飲み込んでしまうようなものは、最初から置いておかない等のちょっとした飼い主さんの注意で予防できます(特に子犬・子猫の時期は異物を飲み込んでしまうケースが多いと思いますので注意して下さい)。
動物達の低い目線で環境を一度見直してみるのも良いと思いますよ。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でも、お気軽にご相談下さい。
日頃の診察の現場でも、「昨晩から何回か吐いてしまったのですけど・・・。」といった嘔吐の症状で来院されるケースは結構多いものです。
ここで「嘔吐の症状」と書いたのは、嘔吐は病名ではなく、何らかの病気の一つの症状にすぎないからです。
したがって、我々獣医師は、その子が嘔吐している根本の病気を見つけださなくではいけません。
単純に「吐いているから吐き止めを注射すれば良い」という訳ではありません。
嘔吐の症状を現わす病気はとてもたくさんあり、胃腸に何らかの問題がある場合もありますが、胃腸以外の病気によって起こる嘔吐もあります(後述します)。
■嘔吐と吐出と喀出の違い(真の嘔吐とは・・・)
嘔吐:真の嘔吐とは、胃内容物あるいは胃液を口から吐くことを言います。
その時の動作は、一般的にお腹を何回か「ゲボッゲボッ」っと動かした直後に「ゲ−」と胃内容物あるいは胃液を吐き出します。胃液は強酸性なので吐き出した物のpHは低い(酸性)です。
吐出(としゅつ):吐出は食べた物が食道内にあるうちに(胃に到達する前に)吐き出されることを言います。
一般的原因には生まれつき食道が狭くなっている場合(先天的な異常)や、生まれつきには食道は正常だったのにその後に食道炎や食道が傷つくことにより食道が狭くなってしまう場合(後天的な異常)があげられます。その他にも食道を動かす神経の麻痺等、神経の異常によるものもあります。
吐出は嘔吐と違って、一般的には食後すぐに吐き戻すことが多く、また、嘔吐の時のようにお腹を動かす動作もほとんどありません。吐いた物は胃液を含まないのが普通なのでpHは中性です。
喀出(かっしゅつ):喀出とは激しい咳の後に「ゲ−」と痰(たん)を吐き出すことを言います。
吐き出されるものは、ほんのわずかな白い泡か、量が少ないので本人が飲み込んでしまいます。
この喀出を嘔吐と間違えて「吐いたのですけど・・・」と来院されるケースが比較的多く見受けられます。
獣医師の立場から言わせて頂くと、喀出の場合、泡を吐いたという結果が重要な事柄ではなく、その原因となる咳をしていることが重要なことなのです。したがって、もしわかれば「吐くんです・・。」ではなく「咳をするんです・・。」と伝えて頂けると診断するのに役立つのです。一般的に、咳の原因となる病気は、喉(のど)の病気、気管や気管支あるいは肺の病気、フィラリアや僧帽弁閉鎖不全症(第20回動物病院だよりを参照して下さい)等の心臓の病気等が考えられます。
■嘔吐を起こす病気
嘔吐を起こす病気は沢山ありますのでその代表的なものを以下にあげます。
1.胃腸の炎症による嘔吐:
胃腸炎や胃潰瘍あるいはウィルスや細菌による感染症等があげられます。胃腸に炎症を起こす代表的なウィルス及び細菌はジステンパーウィルス・パルボウィルス・コロナウィルス・サルモネラ菌があります。
2.炎症以外の胃腸の異常による嘔吐:
胃腸内異物・腸重責・胃捻転・幽門(胃から腸につながる部分)の狭窄・胃や腸の腫瘍等があげられます。これらの病気の多くは手術等の外科的な治療が必要となります。
3.腎臓や肝臓の病気(胃腸以外の病気)による嘔吐:
腎臓の働きが悪くなると血液中に老廃物が蓄積し、「尿毒症(第26回動物病院だよりを参照して下さい)」になると、その老廃物が脳にある嘔吐中枢を刺激して嘔吐が起こります。腎臓の働きが悪くなる原因として、腎臓そのものが悪くなる場合と(第26回動物病院だよりを参照して下さい)子宮蓄膿症(第16回動物病院だよりを参照して下さい)等の病気により二次的に腎臓の働きが悪くなる場合があります。また肝臓の働きが悪くなった場合も同様です。
吐くと言っても、胃腸の病気以外にもこのような病気が原因となっているケースもあり、治療法も全く違うので正確な診断が求められます。
4.中毒による嘔吐:
様々な毒物を摂取する事による嘔吐。この場合、毒物をなるべく体外に排出させるために、嘔吐を止める治療をしてはいけません。危険な毒物の場合、胃洗浄等の処置も必要になる場合もあります。
5.その他の原因による嘔吐:
急性膵臓炎による腹膜炎や胃を圧迫する程の大きな腹腔内腫瘍。心配する事のない原因としては動揺病(車酔い)でも嘔吐することがあります。
以上、述べましたように、嘔吐の原因は様々であり、また今回お話しできなかった原因もまだまだ存在します。
同じ「嘔吐」という症状でも、ジステンパーやパルボウィルス感染症が根本原因である場合は死亡率が高く、また、腸閉塞などでは、外科的治療(手術等)が必要です。
更に中毒の場合は、吐く症状を止めるような治療をしてはいけません。様々な原因があり、治療も様々です。心配しなくてはいけない病気から、あまり心配が必要ない病気まで様々です。
それでは、どのような嘔吐の場合には早めに動物病院で診察を受けた方が良いのでしょうか?
■早めに動物病院で診察を受けるべき嘔吐の症状の目安
A:嘔吐以外に他の症状を併っている場合:食欲減少あるいは廃絶・元気がない・嘔吐だけでなく下痢も併っている等、嘔吐以外に他の症状が1つでもある場合。
B:嘔吐以外に他の症状はない場合でも、1日に何回も(目安として4〜5回以上)嘔吐する場合。
C:嘔吐以外の他の症状はなく、嘔吐の回数も1日に1〜2回程度ではあるが連日(目安として2〜4日以上)続く場合。
D:子犬・子猫や、老犬・老猫の場合は基本的な体力が低下していることも考えられるのでA〜Cに当てはまらなくても早めに!
E:持病を持っている場合:糖尿病や慢性腎不全等の持病を持っている場合、単純な嘔吐でも持病を悪化させてしまう引き金になることもあり得ます。また、糖尿病でインシュリン療法を行っている場合、低血糖や逆に高血糖の兆候として嘔吐する事もあります。
今月は、嘔吐に関してお話し致しました。
嘔吐と言う症状は様々な原因があり過ぎて、今回のお便りで全てを語りつくすことはできません。
しかし、飼い主さんとして「これだけは知っておけば得をする」といった項目を中心にお話し致しました。また、嘔吐の原因として、ウィルスによるものは定期的な混合ワクチン接種で予防できますし、胃腸内異物に関しては動物のいる環境に飲み込んでしまうようなものは、最初から置いておかない等のちょっとした飼い主さんの注意で予防できます(特に子犬・子猫の時期は異物を飲み込んでしまうケースが多いと思いますので注意して下さい)。
動物達の低い目線で環境を一度見直してみるのも良いと思いますよ。
もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でも、お気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです
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