第52回
【知って得する動物の病気の豆知識 その48】
「緑内障」
今月は、眼の病気の中でも重要な病気のひとつである『緑内障』についてお話しいたします。
一般的に、緑内障になると瞳孔が大きく開き、奥の眼底の網膜の緑色(動物の場合、緑以外にも他の色のこともありますが)が目立つようになることから、緑内障と命名されました。
緑内障とは眼内圧(眼の中の圧力)が上がってしまう病気で、眼圧が上がることにより激しい眼の痛みをはじめ、様々な症状をあらわし、短期間のうちに高い確率で失明に至ってしまう病気です(様々な症状に関しては後述いたします)。
図に示すように、角膜と水晶体(レンズ)のスペースを前眼房と呼び、この前眼房は常に一定量の前眼房水という液体で満たされています。この前眼房水は毛様体で産生され、図の太矢印のように瞳孔を通り、前眼房を満たし、最終的に隅角(虹彩の基部)にある排出口より排出されることにより、前眼房水の量を常に一定に保っているのです。
しかし、何らかの理由により、隅角の排出口が詰まったり閉塞すると、前眼房の圧が高くなり(=眼圧の上昇)、緑内障を発症してしまいます。
原発性緑内障は、もともと本人が要因を持っているので、特に原因が思い当たらなくても突発的に発症することが多いのです。それに対し、続発性緑内障は、激しい結膜炎や角膜炎の炎症が眼球内に波及した場合や、激しい角膜潰瘍や眼球内の病気あるいは眼球の打撲の結果として緑内障を発症するケースが多いようです。
要するに、続発性緑内障は、飼い主さんでも気付ける他の眼の病気が前もってあり、その後に緑内障を併発してくるわけですから、根本となる眼の病気を早期に発見し治療することで、緑内障に至らないように予防してあげることが可能であるということです。
また、発症の経過から、急性緑内障と慢性緑内障に分類することもできます。
文字通り、急性の経過のものは急性緑内障であり、慢性の経過のものは慢性緑内障なのですが、一般に急性緑内障の方が眼圧が高く(40〜60mmHg以上)、慢性の緑内障(眼圧は30〜40mmHg程度)に比べて痛み等の症状がかなり激しく出てきます。
●白眼(強膜といいます)や結膜の充血。
●流涙…眼をしょぼしょぼさせ、涙が出る。
●瞳孔の散瞳…緑内障の瞳孔は開いてきます。反対側の眼が正常であれば左右の瞳孔の大きさが異なってきます。
●角膜が急に白っぽく濁る。
●眼球が大きくなり硬くなる(眼圧の上昇による)。
●急性の緑内障の場合、40mmHg以上の眼圧が48〜72時間持続すると失明してしまいます(眼圧の上昇により視神経の細胞が圧迫され死滅してしまうため)。
最も大切な検査です。昔は瞼の上から指で眼を触り、硬さの程度で調べる事が多かったのですが、誤差が多く、不正確な上に主観的な判断になってしまいます。現在では、正確な眼圧を測定する検査器具として「トノペン」というペン型の眼圧測定器が徐々に普及しだしており、実際に使ってみると動物にストレスをかけず、また、その簡便性や正確性には感心します。更に、この眼圧測定器を使えば、眼圧が○○mmHgと数値で示されますので、緑内障の種類や程度を区別することができ、また、治療の選択にも役立ってくれる優れものです。
前述した様々な症状も、診断する上で重要です。
日本に飼われている犬種の中で緑内障にかかり易い犬種は、正式に統計学的な発表をされているわけではありませんが、柴犬やシーズー等では他の犬種に比べ、やや発生率が高いような印象があります。
したがって、治療は少しでも眼圧を下げたり痛みを取ってあげることが主体となります。
近年の点眼薬(何種類かあります)はだいぶ進んできました。
毎日点眼しなくてはいけませんが、眼圧がかなり下がる場合もあります。
内服薬でも眼圧を下げるお薬があります。症状によって処方されるお薬は違うと思われますが、重要なことは、そのお薬を使用してみて、実際にどの程度の効果があるのか、あるいは、あまり効果がないのか、実際に眼圧を測定して判断する必要があります。
1.眼球内注射
眼球内に前眼房水を産生している毛様体を破壊する特殊な注射液を注射する方法です。デメリットとして、注射後一定期間痛みを伴ったり、1回の注射では成功せず何回か再度注射をしなくてはいけないこともあります。また、1回で成功したとして、将来は痛みは取れたとしても、眼は萎縮し(眼球ろう)小さく凹んでしまいます(レーザーや液体窒素を使って毛様体を破壊する方法も少数行われているようですが、同じようなデメリットが考えられます)。
様々な他の方法では、痛みを止めてあげることができない場合は、最終的には眼球全てを摘出せざるを得ません。痛みはなくなるものの、見た感じがとても可哀想に思えてしまいます。その点の悩みを解消してくれる新しい手術方法「眼球内シリコン義眼挿入術」が開発され、全国で眼科に力を入れている動物病院で、徐々に行われるようになってきていますので、次の3で述べます。
前述した1,2を含め、この方法も緑内障で視神経が破壊され、失明してしまったケースで、せめて痛みだけでも取ってあげるための方法です。眼球内シリコン義眼挿入術は、この3つの方法の中で最も優れている方法と言え、手術をした飼い主さんの多くはとても満足してもらっています。この方法は、生きている角膜と白眼を残し、眼球内にシリコン製の義眼を入れるという方法です。眼球自体を温存するので、眼球を摘出したり、あるいは将来眼球が小さく萎縮(眼球ろう)することなく、見た感じは正常に近い状態を保ってくれます。繊細な手術なので、一部の眼科に力を入れている動物病院で行われ始めています。
その他に、新たに前眼房水の排出路を形成する手術等もありますが、動物眼科の充実した一部の大学病院や全国で少数の眼科専門医でしか行われておりません。また、成功率に関しては、はっきりとしたデータはありません。
緑内障は痛みを伴う上に、治療するのにやっかいな病気です。しかし、近年、色々と良い方法(動物に優しい方法)が開発されてきました。
急性緑内障は発症してから48〜72時間後には失明してしまう病気です。やはり、早期発見・早期治療が大切だと思います。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
一般的に、緑内障になると瞳孔が大きく開き、奥の眼底の網膜の緑色(動物の場合、緑以外にも他の色のこともありますが)が目立つようになることから、緑内障と命名されました。
緑内障とは眼内圧(眼の中の圧力)が上がってしまう病気で、眼圧が上がることにより激しい眼の痛みをはじめ、様々な症状をあらわし、短期間のうちに高い確率で失明に至ってしまう病気です(様々な症状に関しては後述いたします)。
■緑内障(眼圧が高くなる病気)の仕組み
そもそも、物を見るための丸い形を維持していくためには、適当な眼圧(平均正常眼圧=15〜25mmHg)が必要です。その適当な眼圧を維持していくためには、生体の繊細なバランスの上に成り立っています。
図に示すように、角膜と水晶体(レンズ)のスペースを前眼房と呼び、この前眼房は常に一定量の前眼房水という液体で満たされています。この前眼房水は毛様体で産生され、図の太矢印のように瞳孔を通り、前眼房を満たし、最終的に隅角(虹彩の基部)にある排出口より排出されることにより、前眼房水の量を常に一定に保っているのです。
しかし、何らかの理由により、隅角の排出口が詰まったり閉塞すると、前眼房の圧が高くなり(=眼圧の上昇)、緑内障を発症してしまいます。
■緑内障の種類
緑内障は先天性や遺伝性等の原因による原発性緑内障と他の眼の病気に続発する続発性緑内障にわけられます。
原発性緑内障は、もともと本人が要因を持っているので、特に原因が思い当たらなくても突発的に発症することが多いのです。それに対し、続発性緑内障は、激しい結膜炎や角膜炎の炎症が眼球内に波及した場合や、激しい角膜潰瘍や眼球内の病気あるいは眼球の打撲の結果として緑内障を発症するケースが多いようです。
要するに、続発性緑内障は、飼い主さんでも気付ける他の眼の病気が前もってあり、その後に緑内障を併発してくるわけですから、根本となる眼の病気を早期に発見し治療することで、緑内障に至らないように予防してあげることが可能であるということです。
また、発症の経過から、急性緑内障と慢性緑内障に分類することもできます。
文字通り、急性の経過のものは急性緑内障であり、慢性の経過のものは慢性緑内障なのですが、一般に急性緑内障の方が眼圧が高く(40〜60mmHg以上)、慢性の緑内障(眼圧は30〜40mmHg程度)に比べて痛み等の症状がかなり激しく出てきます。
■緑内障の症状
●眼の激しい痛み…急激に眼圧が上昇した場合は、食欲や元気がなくなってしまったり、嘔吐を起こすこともあります。
●白眼(強膜といいます)や結膜の充血。
●流涙…眼をしょぼしょぼさせ、涙が出る。
●瞳孔の散瞳…緑内障の瞳孔は開いてきます。反対側の眼が正常であれば左右の瞳孔の大きさが異なってきます。
●角膜が急に白っぽく濁る。
●眼球が大きくなり硬くなる(眼圧の上昇による)。
●急性の緑内障の場合、40mmHg以上の眼圧が48〜72時間持続すると失明してしまいます(眼圧の上昇により視神経の細胞が圧迫され死滅してしまうため)。
■緑内障の診断
眼圧の測定
最も大切な検査です。昔は瞼の上から指で眼を触り、硬さの程度で調べる事が多かったのですが、誤差が多く、不正確な上に主観的な判断になってしまいます。現在では、正確な眼圧を測定する検査器具として「トノペン」というペン型の眼圧測定器が徐々に普及しだしており、実際に使ってみると動物にストレスをかけず、また、その簡便性や正確性には感心します。更に、この眼圧測定器を使えば、眼圧が○○mmHgと数値で示されますので、緑内障の種類や程度を区別することができ、また、治療の選択にも役立ってくれる優れものです。
症状
前述した様々な症状も、診断する上で重要です。
好発犬種
日本に飼われている犬種の中で緑内障にかかり易い犬種は、正式に統計学的な発表をされているわけではありませんが、柴犬やシーズー等では他の犬種に比べ、やや発生率が高いような印象があります。
■緑内障の治療
緑内障の症状や程度により、治療法は異なりますが、根本を治すということは、ほとんど難しい病気です。
したがって、治療は少しでも眼圧を下げたり痛みを取ってあげることが主体となります。
点眼や内服による内科療法
近年の点眼薬(何種類かあります)はだいぶ進んできました。
毎日点眼しなくてはいけませんが、眼圧がかなり下がる場合もあります。
内服薬でも眼圧を下げるお薬があります。症状によって処方されるお薬は違うと思われますが、重要なことは、そのお薬を使用してみて、実際にどの程度の効果があるのか、あるいは、あまり効果がないのか、実際に眼圧を測定して判断する必要があります。
外科療法
1.眼球内注射
眼球内に前眼房水を産生している毛様体を破壊する特殊な注射液を注射する方法です。デメリットとして、注射後一定期間痛みを伴ったり、1回の注射では成功せず何回か再度注射をしなくてはいけないこともあります。また、1回で成功したとして、将来は痛みは取れたとしても、眼は萎縮し(眼球ろう)小さく凹んでしまいます(レーザーや液体窒素を使って毛様体を破壊する方法も少数行われているようですが、同じようなデメリットが考えられます)。
2.眼球摘出術
様々な他の方法では、痛みを止めてあげることができない場合は、最終的には眼球全てを摘出せざるを得ません。痛みはなくなるものの、見た感じがとても可哀想に思えてしまいます。その点の悩みを解消してくれる新しい手術方法「眼球内シリコン義眼挿入術」が開発され、全国で眼科に力を入れている動物病院で、徐々に行われるようになってきていますので、次の3で述べます。
3.眼球内シリコン義眼挿入術
前述した1,2を含め、この方法も緑内障で視神経が破壊され、失明してしまったケースで、せめて痛みだけでも取ってあげるための方法です。眼球内シリコン義眼挿入術は、この3つの方法の中で最も優れている方法と言え、手術をした飼い主さんの多くはとても満足してもらっています。この方法は、生きている角膜と白眼を残し、眼球内にシリコン製の義眼を入れるという方法です。眼球自体を温存するので、眼球を摘出したり、あるいは将来眼球が小さく萎縮(眼球ろう)することなく、見た感じは正常に近い状態を保ってくれます。繊細な手術なので、一部の眼科に力を入れている動物病院で行われ始めています。
4.その他の方法
その他に、新たに前眼房水の排出路を形成する手術等もありますが、動物眼科の充実した一部の大学病院や全国で少数の眼科専門医でしか行われておりません。また、成功率に関しては、はっきりとしたデータはありません。
今月は、緑内障についてお話し致しました。
緑内障は痛みを伴う上に、治療するのにやっかいな病気です。しかし、近年、色々と良い方法(動物に優しい方法)が開発されてきました。
急性緑内障は発症してから48〜72時間後には失明してしまう病気です。やはり、早期発見・早期治療が大切だと思います。
もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです
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