第51回
【知って得する動物の病気の豆知識 その47】
「毛包虫症(アカラス症又はニキビダニ)」
今月は、犬や猫及びハムスター等に発生する皮膚病の原因のひとつである毛包虫症という皮膚病についてお話致します。
毛包虫症とは、皮膚の毛穴に寄生する特種なダニの一種である『毛包虫』という寄生虫により起こる皮膚病です。ここで特殊なダニとお話ししましたのは、一般的に飼い主さん達が思い浮かべる動物に寄生するダニは、目に見えるダニだと思いますが、この毛包虫は体長が約200ミクロン(0.2mm)と小さく、肉眼で見ることはできません。小さいので、1つの毛穴に数匹寄生していることもあります。
また、形もダニと聞くと、丸に近い形を連想しますが、毛包虫は細長くどちらかというとイモ虫みたいな感じの形です。

 

もう一点、特殊なダニである特徴として、免疫力が正常な動物では、皮膚病を起こすほど繁殖(増殖)はできないということです。
皮膚の免疫力が正常な動物にも毛包虫は極めて少数(いくら検査しても絶対に見つからないほど、極めて少数)寄生していると言われていますが、その程度の数では皮膚病は起こりませんし、他の問題もいっさい起こしません。逆にいうと、毛包虫によって脱毛等の皮膚病を起こしてしまう個体の場合、その個体の皮膚の免疫力が低下していることが考えられます。言い換えると、あまりにも皮膚の免疫力が低い個体では治療しても治らないこともあります(マスダ動物病院の H.P内のエピソードの輝ちゃんのお話しを参考にして下さい)。
毛包虫による皮膚病変は、以下に述べますように多様であり、他の皮膚病と一見酷似していることも多いので、以下の症状を示す場合は、毛包虫による皮膚病なのか、毛包虫とは全く関係のない皮膚病なのかをちゃんと検査する必要があります。

 

 

■症状

 

●脱毛
●鱗屑(リンセツ:フケのようなもの)
●丘疹(キュウシン:赤いプツプツ)
●膿疱(ノウホウ:丘疹の赤いプツプツの中に黄色の膿が入っているもの)
●痒みはあまり強くはありませんが、膿疱のように細菌による二次感染が起こった場合は痒みは増加することが考えられます。
●発症年齢は1〜2才くらいまでの若齢で発症することが多いのですが、それ以上の成犬になってから発症することもあります。

 

 

■検査・診断

 

毛包虫による皮膚病か否かを調べるためには、簡単な皮膚掻爬(ソウハ)検査することでわかります。
毛包虫は毛穴の中に寄生しているので、皮膚を少々赤くなる程度まで掻爬して、その掻爬したものを顕微鏡で調べ、毛包虫を探し出します。
重要なことは、皮膚病にも様々な原因があり、その原因によって治療法も違います。したがって、先程お話し致しましたように毛包虫による皮膚の症状は他の原因の皮膚病でも同様の症状が起こり得る訳ですので、初期の段階で毛包虫によるものか否かを調べることが大切だと思います(簡単な検査ですし・・・)。

 

 

■治療

 

現在、行われている治療法は大きく2つあります。
ひとつは、特種な薬の注射や飲み薬という方法です。
またもうひとつは別の特種な薬で体を洗う(薬浴)という方法です。
いずれの方法を取るかは、獣医師の考え方や経験的なもので決定されます。しかし、いずれの方法でも残念ながら100%の治療率ではありません。その理由は最初にお話し致しましたように、その個体個体の皮膚の免疫力の低下の程度には差があり、あまりにも免疫力が低下した個体では、上記の治療法だけでは完全には毛包虫を撲滅することはできないようです。
治るためには適切な治療だけでなく、生体側の治ろうとする免疫力も必要な病気なのです。
また細菌による二次感染が起こった場合には、細菌に対する抗生物質療法を併用する必要がでてきます。

 

最後に毛包虫症を発生する個体は、遺伝的なファクターも関係しているかもしれないという説もありますので、毛包虫症で発症した場合は治療により完治したとしても、繁殖は控えた方が良いかもしれません。

 

 

今月は、毛包虫症についてお話致しました。
単なる皮膚病だと思っていたら、検査の結果、毛包虫症であったということは、決して珍しい事ではありません。たとえ、毛包虫症であっても早期に発見すれば、早期に治療を始めることができます。
また、治癒率が100%とは言えないものの、早期に治療を始めることにより多くの場合、完治に到達することができます。
皮膚病と一言でいっても色々な原因があり、今回の毛包虫症のような原因もあるだと頭のすみに入れておいて頂ければ幸いです。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

----- このページを閉じてお戻りください -----