第47回
【知って得する動物の病気の豆知識 その43】
「膀胱炎」
今月は、泌尿器系の病気の代表とも言える膀胱炎についてお話し致します。

 

膀胱炎とは、文字通り何らかの原因により、膀胱に炎症が起こる病気を言います。
しかし、ひとくちに膀胱炎といってもその原因によって、経過や治療方法が違ってくるのです。
膀胱炎症状は原因に関わらず、だいたい同じような症状を示すことが多いので、原因を調べその原因に合った治療をすることが重要です。

 

 

1.膀胱炎の症状(以下の症状が単独あるいは組み合わさって起こります。)

 

●頻度・残尿感
トイレに何度も行くようになり、また1回の尿量は少なくなります(頻尿)。
トイレに入って長時間排尿姿勢をとっているようになります(残尿感)。
※注意:第19回動物病院だよりの「F.U.S」でお話し致しました雄猫で特に起こりやすい尿道の閉塞と区別しなくてはいけません。雄猫の尿道閉塞は命に関わる緊急疾患だからです。しかし、膀胱炎の頻尿と尿道の閉塞の鑑別は一般の方々には容易ではありません。

 

●血尿
膀胱の炎症の結果、膀胱粘膜から出血が起こることがあります。
出血の程度により、飼い主さんの目でみてもはっきりわかるものから、肉眼的には正常な尿と区別が全く見分けがつかないものまで様々です。肉眼的に血尿と全くわからない程度の出血でも、動物病院での簡単な尿検査で、極微量の血液でも検出することができます。

 

●臭いの変化
臭の変化は、色々な原因によって起こります。
その代表的なものとして「細菌性膀胱炎」における細菌感染が起きた場合の尿があげられます。

 

●尿の混濁(にごり)
尿の透明感の低下も色々な原因によって起こります。その代表的なものとして、やはり「細菌性膀胱炎」における細菌感染を起こしている尿があげられます(混濁尿)。

 

 

2.原因による膀胱炎の分類及び治療

 

【1】細菌性膀胱炎
本来、膀胱は細菌が感染しにくいように様々なメカニズムが働いていますが、運悪く細菌の感染が成立してしまうと、細菌性膀胱炎になってしまいます。まずは、尿検査で尿中の細菌を検出することにて診断します。
感染を成立しやすくする因子として、
〈1〉性別:雌は雄に比べてもともと、尿道が短く太いので感染が起こりやすい。
〈2〉膀胱内に膀胱結石や結晶(後述)が存在すると、それらが膀胱粘膜を傷つけ、膀胱粘膜のバリアー機能を低下させてしまい感染が起こりやすくなる。
〈3〉膀胱に癌等の腫瘍(後述)ができてしまうと、感染が起こりやすくなる。癌等の腫瘍の表面は粘膜のバリアー機能が弱いからです。
〈4〉犬より猫の方が細菌性膀胱炎を起こしにくいと言われています。理由は猫の方がもともと尿が濃く(尿比重が高く)犬に比べて細菌が感染、増殖しにくい動物だからと言われています。
ただし、慢性腎不全(第26回動物病院だよりを参照)等の尿が薄くなる(尿比重が低くなる)病気が潜在的にあると犬・猫ともに感染しやすくなります。
●細菌性膀胱炎の治療
細菌性膀胱炎単独の場合は抗生物質が主体の治療となります。
獣医師の経験的に抗生物質を選択する場合もありますし、感受性試験(細菌を培養しどの抗生物質が効くか調べる検査です)をして抗生物質を決定する場合もあります。
経験的に選択した抗生物質で効果が見られない場合は感受性試験が必要なこともあります。
また、膀胱結石や結晶、あるいは腫瘍等が併発している場合は、それぞれに対する治療(後述)もあわせて必要になります。

 

【2】膀胱結石や結晶による膀胱炎
膀胱内に結石あるいはこまかい結晶ができ、それらが膀胱粘膜を傷つけることにより起こる膀胱炎です。
膀胱結石や結晶には色々な種類があり、結石ができてしまう原因も結石の種類により様々です。
今回は膀胱結石の種類別の発生原因をそれぞれ詳しくお話し致しませんが、食事内容や体質が関連しているケースが多いと言えます。また、膀胱結石の種類によりレントゲン検査でレントゲン写真にはっきり写る結石と写りにくいものがありますので、獣医師側もエコー検査等の他の検査も併用して診断していく等、考えなくてはいけないこともあります。
犬でも猫でも、一般的に雄の方が雌に比べて尿道が細いので、小さな結石(猫の場合は結晶)でも、尿道につまりやすいので注意が必要となります。
●膀胱結石や結晶による膀胱炎の治療
結石や結晶に対する治療法にはいくつかありますが、基本的には結石や結晶の種類によって治療法が違ってきます。
例えばストルバイト(リン酸アンモマグネシウム)結石・結晶は食事療法(結石溶解用の処方食)や、お薬等の内科療法で溶けて消失してしまう可能性の高いタイプの結石なので、尿道につまってしまう等の緊急時以外は第1選択とし前述の内科療法が選択されることが多いです。
一方、食事療法等の内科療法では全く溶けない種類の結石では手術等の外科療法が選択されます。

 

【3】膀胱腫瘍に伴う膀胱炎
高齢になるとまれではありますが、膀胱癌等の膀胱腫瘍が発生することがあります。
膀胱内の腫瘍の表面はただれ易く、過敏になることもあるので、膀胱炎の症状を表す場合もあります。
膀胱腫瘍の治療:膀胱腫瘍の場合、悪性の移行上皮癌(いわゆる膀胱癌)である確率が高いと言われています。したがって、根本的な治療は難しいケースも多いのですが、化学療法(抗癌剤)や外科手術が考えられます。
近年ある種の化学療法である程度効果があるケースも報告されています。

 

【4】その他の膀胱炎
上記の【1】〜【3】以外の膀胱炎もありますが、まれと言えます。
多くの場合【1】〜【3】のタイプの膀胱炎です。

 

 

今月は膀胱炎についてお話し致しました。
トイレに何度もかけ込む姿は、見ていてとても可哀想に感じる症状ですね。早めに動物病院で膀胱炎の原因は調べてもらい、的確な治療を受けさせてあげてください。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でも、お気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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