第42回
【知って得する動物の病気の豆知識 その38】
「動物のパワー(動物とのふれあい活動)」
今月は、動物のパワーを借りたボランティア活動について、お話し致します。

 

私達は、雑多な日々の暮らしの中で、共に暮らしているワンちゃん・ネコちゃんたちの顔を見たり、抱きしめるだけでも、疲れた心や淋しい心が癒されていることに気付くことがあります。
日々の生活をよく振り返ってみると、名前を呼べば、尻尾をフリフリ近寄ってきて、頭を撫で上げれば、嬉しそうな顔をする……私達は、もの言わぬ動物たちに、どんなにか心を慰めてもらっていることでしょう。
我々が動物を飼うのは、そんなパワーが動物にあるからだと思います。

 

 

さて、こんな動物の不思議なパワーを利用して、特別養護老人ホームや、ホスピス、あるいは障害をお持ちの小さなお子さんの施設に、動物を連れて訪問する活動が、全国各地で行われております。
全国的にみると、このボランティア活動を行っている団体は様々ありますが、私の住む静岡市の場合、静岡市獣医師会のメンバーと、一般の飼い主さん(もちろん、ボランティア動物に向いているかの適正チェックがあります)、そして、主役である自分の飼っている動物とで、「ひだまり倶楽部」という団体を結成し、平成9年10月より活動を開始しました。

 

先程述べたような、施設の中で暮らしているお年寄りや患者さんたちは、日頃、お習字や切り絵などをしたりと、元気にお暮らしではありますが、生きた動物と触れ合う機会は、皆無と言えると思います。
昔は動物を飼っていたけれど、施設の中では飼うこともできず、月に1度のこの活動を、ご飯を食べたことを忘れても、動物たちが来てくれたということは覚えており、楽しみにしているという程、皆さんにとって、気持ちの上で、とても大切なものになっているようです。

 

それでは、なぜ、この活動に動物が向いているのでしょうか?
動物の持っているパワーを、解説いたします。

 

 

  • 動物は、体温が人よりも1〜2度高く(触って暖かい)被毛も軟らかい(触った感触が良い)。
  • 動物は、外観で人を差別することなく、頭を撫でてくれる人にはシッポを振ったりして、愛情表現を示してくれる。
  • 動物のことを会話の題材にすることにより、会話が弾む(この活動は、単に動物に触れてもらうだけでなく、動物を介して、人間と人間の会話をするといった活動です。しかし、動物なしに、人間だけで行っても、なかなか会話が弾みません。動物を連れている人に対しては、安心感から、心を開いてくれる効果もあるのです)。
  • お年寄りなど、いつも施設の職員の方に何かをしてもらう立場にありますが、小さな動物を膝の上に抱っこすることにより、「落とさないように」などと、してもらう立場から、してあげる感覚の自覚の目覚めが起こるケースもある。

 

以上、動物の潜めている不思議なパワーについて、科学的(?)な見地から、考えてみました。

 

 

次に、実際に活動に参加してくださっているボランティアさんや、施設の職員の方に、印象に残っているお話をアンケートにて伺ったことがあるので、ここで紹介させて頂きます。

 

  • いつも目を閉じたままのことが多いお年寄りが、「ワンちゃんが会いに来ましたよ」と声をかけてしばらくしてから目を開け、スタッフの方も驚いていました。あの時の嬉しそうなおばあさんの顔が忘れられません。
  • 犬のこと、ボランティアさんのことをちゃんと覚えていてくださり、1回参加しなかったりすると、「この前来なかったね!」などと声をかけてくださる方がいました。一人でも待っていて下さる方がいると思うと、本当にやり甲斐があることに気付きます。
  • 活動中、ずっと叫び続け(痴呆のひとつの症状として)、お話し出来なかった方に「また来ますね」と言った時、急に「ありがとうございました」と頭を下げて挨拶されました。又、声をかけても全く反応がなかった方に、「今日はいいお天気になりましたよ」と言った時、少しだけ頷き、目を真横に動かし、外を見ようとしていました。
  • 全くお話しをされないおばあさんですが、動物にはあまり興味がなく、人に対しても時々攻撃的に出てくる所があるそうなのですが、手を握り、お名前を呼ぶと、満面の笑みをたたえ、帰ろうとすると「待って!」とでも言いたいのか、掴んだ手に力を入れてくることがありました。何の反応もないと思っていても、急にほんの少しの反応を見せてくれたり、お話しできなくても、触れていることに喜びを感じていらっしゃると思うと、嬉しくなってきました。
  • 「あっ、おばあちゃんが声を出した!」と、日頃、会話されないおばあちゃんが突然声を出されたことに、一緒にいた家族の方が驚かれ、とても嬉しそうな顔をされました。
  • 以前飼われていた犬のことを思い出して、色々お話ししている内に、涙ぐまれたことがありました。
  • ホスピスの患者さんで、いつもは沢山の痛み止めが必要な患者さんや、酸素が必要な患者さんが、動物たちが来る日は、痛み止めの量が激減したり、酸素マスクを自ら外し、動物たちと触れ合っている姿を見ると、「動物の持つ力って凄いな〜」と驚かされます(ホスピス看護師さん談)。

 

 

最後に、この「動物とのふれあい活動」は、良く言われている、いわゆるアニマルセラピー(Animal Assisted Therapy=AAT、又は動物介在療法)とは少し違い、動物介在活動(Animal Assisted Activity=AAA)と言います。
AATは、治療を目的に動物を使って、治療効果を出すために、医師や理学療法師がメニューを決め(治療計画を立てて)行うことを言います。
我々が行っているAAAは、動物と触れ合って頂くことにより、一時的なものかもしれませんが、「ひと時の幸せを感じてもらう活動」と言えます。

 

 

もし、これを読んで興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、各地方で活動している団体、あるいは、かかりつけの先生か地方の獣医師会に問い合わせてみてください。
我々「ひだまり倶楽部」も、多くのボランティアさんを募集しております。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

----- このページを閉じてお戻りください -----