第38回
【知って得する動物の病気の豆知識 その34】
「動物達の痛みとペインコントロール」
今月は動物達の痛みについてお話し致します。
「痛み」と一口で言っても、痛みには様々な部位の様々な程度の痛みがあります。
例えば、腹痛・腰痛・関節痛・眼痛・頭痛・・・etc。また、激痛もあれば鈍痛もあります。「ここが、このように痛い!」と言えれば分かりやすくていいのですが、残念なことに動物達は言葉を伝えることができません。
しかし、動物達はこれらの痛みに対して、様々な形で痛みを表現し、飼い主さんに伝えようとしています。

 

 

■関節痛
関節痛に代表される手や足の痛みに関しては、その痛い手あるいは足を軽く着地させます。さらに痛みの激しい場合は、完全に挙げてしまい着地せず3本の手足で歩くようになったりと、立ち方や歩き方に変化が出てくることが多いので、比較的飼い主さんが発見することが容易な部位かもしれません。
また、眼痛の場合は、眼をまぶしそうに「ショボショボ」させたり手で眼をこすったりと、これもまた飼い主さんが「何かおかしいな」と思えるサインを出してくれます。

 

 

■腰痛・頚部痛
腰痛や頚部痛の場合は少し発見しにくくなってきます。
ソファー等に飛び乗った時、あるいは抱き上げたときに突然「キャン」と鳴いたり、無理な姿勢をした時に痛がることもありますが、何もしていなくても突然「キャン」と痛がる場合もあります。
また、「キャン」と鳴いて痛みを表現しないで、唯一姿勢に変化が出てくるだけのこともあります。例えば腰痛の場合、少し背中をまるくして歩いたり、あるいは歩き方がいつもより慎重に歩いているように見えたりするケースもあります。
頚部痛の場合は更に上を見上げることをしなくなることもあります。「○○ちゃん」と名前を呼ぶといつもなら飼い主さんの足元に来て頭をあげ、飼い主さんを見て「だっこして」とじゃれついてくるのに、このような反応を示さなくなり、首を固定して、歩くようになるケースもあります。

 

 

■腹痛・頭痛
一番発見しにくい痛みは腹痛及び頭痛(動物達にもおそらく頭痛もあると思っているのですが…)です。腹痛の場合はキャンキャン痛がることは極めて少ないのです(キャンキャン鳴く程の腹痛だとするとそれは激痛を示していると考えてあげて下さい)。
一般的な腹痛の場合、多くはむしろ静かにじっと痛みに耐えているようにうずくまっていることが多いのです。飼い主さんの目には「何となく元気がないのかな?」といった具合に、はっきりとしない症状しか示しません。また、時にはおちついて1ケ所にいることができず、そわそわと居場所を変えたり、また、ある時には妙に飼い主さんにまとわりつき、まるで「この痛みをなんとかして!」と訴える様子を見せる場合もあります。
頭痛に関しては発見は困難だと思われます。私自身、まだ一度も「頭痛がある」と診断したことはありません。

 

 

お話し致しました様々な痛みに対して、我々獣医師は、その痛みの原因を探り、根本を治療してゆくことが一番重要なのですが、一方で今、現在の症状(痛み)をとってあげることも治療として、とても大切なこととなります。
こういった痛みをやわらげてあげる治療のことを「ペインコントロール」と呼び、動物の医療でも最近非常に発達してきている分野のひとつです。要するに「以前の薬よりも更に良く効く痛み止め(鎮痛剤)が開発されてきた」ということです。

 

前述した様々な痛みに対してこの「ペインコントロール」が注目されるようになり、特に慢性関節炎に代表されるやっかいな痛みを以前より更にやわらげてあげられるようになりました。また、手術後の痛みに対しても、手術の前・後に「ペインコントロール」を行なうことにより、かなり術後の痛みをおさえてあげられるようになり、動物達の手術からの回復がより早くなりました。そういった点でも昔よりも動物達に優しい医療になってきているのではないかと思います。
私も獣医師の立場から、近年の消炎・鎮痛剤の進歩により治療の選択肢が増え、飼い主さんや動物達により良い治療ができるようになったことをとても喜ばしく思っております。

 

 

今月は、動物達の痛みに関して色々な角度から考えてみました。飼い主さんが、しゃべれない動物達の痛みに少しでも関心をもって下さり、場合によっては早く発見する一助になってくれればと思います。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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