第37回
【知って得する動物の病気の豆知識 その33】
「多飲・多尿を示す疾患」
ペット相談室のご相談の中にも「お水を飲む量が増えたのですけど…」といったご質問を比較的多く見受けられます。
そこで、今月は水を沢山飲むようになり、また尿もたくさん出るようになる(多飲・多尿と言います)病気についてお話致します。
一般に飼い主さんからみて、熱っぽかったり、食欲が減少したり、どこか痛がる様子をみせたり、元気がなくなったり、吐き気や下痢を示したり等、何か症状があれば病気と認識できると思います。しかし、「お水を沢山飲むようになる」という一見病気ではないような症状しか示さない病気もあるのです。
しかも、そういったケースでは重要な病気が潜在している場合も少なくありません。

 

以下に多飲・多尿を示す代表的な病気をあげてみましょう。

 

 

【1】慢性腎不全
中年(5〜6才)以上の特に老齢の動物にしばしばみられる腎臓の病気です。特に中年以上の猫では、この慢性腎不全が多く見受けられます。慢性腎不全は腎臓の細胞があとどのくらい残されているかにより、初期・中期・末期に分けられます。
重要なことは、多飲・多尿の症状はこの慢性腎不全の色々な症状(後述)の中で一番最初にでてくる症状なのです。しかも、慢性腎不全の初期からでてくる病気なので、早期に病気を発見することができるのです。早期にこの症状を発見できれば、食事療法などそれ程手のかからない治療で当面普段通りの生活を送ることが可能です。
しかし、残念なことにこの病気は、慢性の経過をたどりつつ、徐々に病気が進行してくるのです(腎臓の細胞の残されている数が徐々に減少してくるため)。
初期の多飲・多尿のみの症状の時期から徐々に病気が進行し、中期以降になるといわゆる尿毒症(本来体内に貯まってしまった老廃物(尿素窒素等)は尿中に排出されるのですが、腎機能が低下すると体内(血液中にも)蓄積されてしまいます。その状態を尿毒症と呼びます)の症状が出てきます。先程、後述すると言った症状はこの尿毒症の症状の事で、多飲多尿以外に食欲不振、嘔吐、元気消失等があげられます。さらに末期になると、嘔吐はさらにはげしくなり、食欲も全くなくなり、脱水症状等により体は急にやせこけ毛づやもなくなってしまいます。最終的には命に関わる深刻な状態へと症状が悪化していきます。
詳しい事は第26回動物病院だよりを参考にして下さい。

 

 

【2】糖尿病
動物達にも糖尿病があります。犬でも猫でも起こります。
特に好物ばかり与えられる偏食がちな肥満犬の場合、発生率は高くなるようです。犬では200〜300頭に1頭の割合で発生すると言われています(猫では犬に比べやや発生率は低いようです)。
また、雌は雄に比べて3倍糖尿病となりやすいというデータもあります。
糖尿病は血糖値を抑制するインシュリンというホルモンが足りなくなる病気で、血糖値が高くなり、結果的に尿中に糖が出てきてしまう病気です。血糖値が高くなってしまうことにより、色々な問題がでてきます。
その代表的な症状はやはり多飲・多尿です。しかし、先程お話し致しました慢性腎不全と違う点は糖尿病の場合、多飲・多尿の症状に加え、多食(異常な食欲)という症状を示すことが多いのです。
他の症状としては、糖尿病性白内障等があげられます。治療が遅れ、糖尿病が進むとケトアシドーシスという状態になり、食欲廃絶、頻回の嘔吐、削痩(さくそう:やせる事)といった劇的な症状を示し、最終的に昏睡状態から死に至ります。
詳しいことは第13回動物病院だよりを参考にして下さい。

 

 

【3】副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)
耳なれない病名ですが、副腎という臓器(腎臓の前に存在する小さな臓器)の病気で、本来副腎で作られているホルモンが異常に多く作られてしまう病気です。
前述した糖尿病と同じように異常な食欲と多飲・多尿を示します。
また、この病気になると脱毛が生じてくる事があります。場合によっては体全体が脱毛してしまい、皮膚病として来院してくるケースもあるのです。
その他の症状として、お腹の皮膚が薄くなり、筋力が低下したり、肝臓が悪くなったりと、色々な症状を併発します。

 

 

【4】子宮蓄膿症
子宮に膿(うみ)が貯まり、早期発見し手術しなければ数日のうちに命を落としかねない緊急疾患です。避妊手術をしていない中年以降(主に5〜6才以上)の雌に発生する病気で、日頃の診察の中でも比較的多く遭遇します。
症状としてはもちろん多飲・多尿を示す事が多いのですが、急速に食欲が落ち元気もなくなり、衰弱していってしまう病気です。この病気の予防は繁殖の意志がなければなるべく早期(1才前後で)に避妊手術を受けておくことです。

 

 

以上、多飲・多尿を示す代表的な病気をあげてみました。
今回はお話し致しましたように、お水を多く飲む病気の多くは、食欲もあり、一見病気のように感じられないかもしれませんが、それを放っておくと、命に関わる病気が潜在していることが多いことがおわかり頂けたと思います。

 

 

—多飲多尿は病気のシグナル!—
多飲多尿がみられたら、早めにかかりつけの先生にご相談下さい。きっと、早期発見に役立つと思います。
※[重要]
まれに動物病院で処方されたお薬によっては、一過性に多飲多尿をあらわすお薬もあります。一般的にはお薬の投薬期間が終了すると、自然にもとにもどります。こういったケースを今回お話ししました病気と混同しがちなため「お薬を飲みはじめたら急に沢山のお水を飲むようになった」という場合は、もし心配でしたら、かかりつけの先生にご相談してみて下さい。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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