第36回
【知って得する動物の病気の豆知識 その32】
「ペットロス(マスダ家の場合)」
家族の一員として可愛がられ、飼い主さんと共に生活している幸せな動物たちが昔よりずっと増えてきた事は大変喜ばしいことであるとともに、私達、動物病院関係者に対する期待や責任の重さをあらためて感じさせられることもあります。
ペットロスとは、直訳すれば“ペットを失う”ということですが、実際は愛する動物を失った飼い主さんの悲しみを表す言葉です。
ペット(伴侶動物あるいはパートナー)の存在は、核家族化が進む近年、人に安らぎを与えてくれる存在として愛され、大切なものとなってきています。

 

一方、それだけ存在の大きくなったパートナーを失うということは、大きなショックを伴うものです。しかも、場合によっては精神的に不安定な状態が続いてしまったり、体調を崩してしまうケースも珍しくありません。

 

そうならないために色々な事が言われています。

 

例えば・・・
●愛するパートナーを亡くして悲しいと思う感情は自然な感情ですし、亡くなった子のためにも涙を流してあげることは良い事で何もおかしいことではないのです。
●その子に対し飼い主さんとして
悔いを残さないような最期を迎えられるように努力する(最期が近付いてきたときに飼い主さんとして何がその子にとって一番大切かをよく考える)。
この事に関しては飼い主さんの考え方・飼い主さんとその子とのそれまでの関係・一緒に過ごした年月の長さや重さ等100のケースがあれば、100の最期の迎え方があると思います。もちろん治る可能性のある病気であれば獣医師は治すため最大限の努力を致しますし、飼い主さん自身もその子を早く病気から治してあげたいと思うことでしょう。
ただし治る見込みのない病気の場合は先程もお話し致しましたように、「その子にとって何が一番良い選択なのか?あるいは飼い主さん自身が悔いを残さないためにはどうしたら良いのか?」をよ〜くかかりつけの先生と相談すべきだと思います。獣医師はあくまでも獣医師の立場からアドバイスをするわけですから、納得がいかない場合は十分納得がいくまで相談することが良いでしょう。
人それぞれ考え方が違いますから、ある飼い主さんは最期の最後までわずかな期待とはいえ(持ち続けるためにも)治療を続けることがあとで悔いを残さないことかもしれません。
また、ある飼い主さんは、治る見込みのない病気ということを認め、置かれた状況を受け入れ、残された期間をパートナーと大切に過ごすことに重点を置き、そのための治療だけを行なってあげることが、あとで悔いを残さないことかもしれません。

 

 

今回ペットロスについて書こうと思ったのは、一昨年の6月(ちょうど2年前)開院当初から飼い始めた我が家のプードルの「ミルキー(通称ミルちゃん)」が 15才で亡くなったからもあります。これを読まれている多くの方々はまだ自分の動物は健康そのものや飼い始めたばかりで、まだパートナーの死など考えもしないかもしれませんね。ここからは我が家の話なので、文章のタッチもいつもと違いますが読んでみてください。

 

 

妻とは1987年の3月に結婚し、同年9月動物病院を開院しました。同年の2月に生まれたミルちゃんが我が家に来たのは生後2ヶ月の4月でした。
当時妻は動物を飼った経験もなく、小さな頃に犬に追いかけられ、怖い思いをした記憶から、動物が苦手となってしまったようです。
しかし、結婚した相手は獣医さん。動物に接することなしには生活することはできません。そこで私が考えたのが仔犬を飼うことでした。
幸いにも2ヶ月齢のプードルの仔犬を見るなり「うわ〜!可愛い〜ね〜」と喜び、何ヶ月も前から決めていた“ミルキー”という名前をつけ、どこに行くにも足元について回る可愛いミルキーととても楽しそうにしていました。
意外にもスムーズに受け入れ、ミルキーや患者さん達の動物のお陰で、仕事にも慣れ、動物の素晴らしさを教えてもらったように思います。以前、私が注射するために犬を保定した妻が一瞬の間に顔を咬まれ、ポタポタ出血してもなお絶対に放さないことがありました。この事件をはじめ様々な事があり、いつの間にか根性の座った動物看護士に成長していました。そんな訳もあってミルキーは妻にとって家族でもあり、恩師でもあったように思います。

 

その後15年間もの長い間、ミルキーとの楽しい生活が続きました。妻も私も、もっとこの生活が続いてくれるものと思ってましたが、実は14才の時に心臓病に患っているのを発見しました。毎日のお薬と食事療法を続けながら「まだまだミルちゃんは元気に生きていけるよね。だって今まで沢山の心臓病の子達もこの治療でずっと元気にしているもんね」
私も「うん大丈夫だよ」と話していました。しかし、別れの日は突然訪れました(私達が思っていたよりもずっと早く)。

 

平成14年6月8日の早朝ミルキーは突然倒れ酸素や蘇生処置にも全く反応せずそのまま息を引きとりました。「心不全」でした。
特に妻にとっては初めて飼った犬でした。妻もミルキーから沢山のことを教えてもらったはずですし、我が子のように可愛がり続けていたかけがえのない存在でした。
私達は亡きミルキーを想い、眼が腫れる程涙を流し、亡くなってからも3日間手元に置き、十分な時間をかけてお別れをしました。ダンボール製のひつぎの中を庭に咲いていた花や友人達から頂いた花で埋め尽くし、最後のお別れをしました。
家に帰ってきて、何かポツンと取り残された感じや、「フッ」と足元にミルキーがいるような錯覚にとらわれたり・・・。ミルキーの存在の大きかったことをあらためて感じさせられました。それから数日間、妻はミルキーとのなつかしいビデオを見たり、暇を見つけてはミルキーとの写真を取りだし、一枚一枚その時の事を想い出しながら大きな額にミルキーとの日々を詰め込みました。
ミルキーは今でも近くにいると思います。ミルキーとのお別れはとても辛かったけれど、ミルキーと出逢えて妻も私も本当に良かったと思っています。きっとミルキーも同じように幸せに感じてくれているに違いありません。
始めにお話し致しましたように、長年一緒に生活を共にした動物とのお別れはとても辛いものかもしれません。それは絆が深ければ深い程辛さも深くなるからだと思います。いつかは訪れるであろう悲しいお別れ、まだまだ現実的ではない方も沢山いらっしゃることと思いますが、最期のその時が来ても悔いが残らないように日々を過ごすことがとても大切だと思います。

 

 

今月は「ペットロス」についてマスダ家ではこんなお別れをして「ペットロス」を乗り越えたというお話しをさせて頂きました(少々、自分の世界に入ってしまったかもしれません。すみません)。

 

もの言えぬ動物達の場合、飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの勤めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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