第21回
【知って得する動物の病気の豆知識 その17】
「痴呆」
今月は動物達の老化に伴う「痴呆」についてお話ししたいと思います。

 

日頃の診療の中で、老犬では比較的よく遭遇することのある「痴呆」ですが、老猫ではこういった問題は犬に比べて少ないように思います。実際、現在の獣医学の中でも犬に的をしぼった研究が多いのです。
そこで今回は「老犬の痴呆」ついてお話しさせて頂きます。

 

十数年前に比べて、獣医学の進歩や飼い主さん達の意識の向上に伴い、多くの犬達はフィラリアやジステンパーなどの恐ろしい病気は予防してもらえるようになり、平均寿命もずいぶん延びてきました。その一方で老齢に伴う様々な病気(ガンや心臓病・白内障等)や今回のテーマである「痴呆」等の問題がクローズアップされるようになってきました。

 

受付で最近よく相談される内容として、「どうも耳が遠くなったのか、以前は帰宅すると喜んで玄関まで出迎えてくれたのに…」とか「どうも物が見えにくくなったようで…」といったことが非常に多くなってきたように思います。
(老化現象とは別に、耳が遠くなったり、眼が見えにくくなる病気もありますので、こういった時には、まずは動物病院で診察を受けることをおすすめ致します。治療により回復する可能性のある病気もありますので、全て老化現象で片付けないようにして下さい)

 

耳が遠くなる、眼が見えにくくなる、足腰が弱くなってくる等の一般的な老化現象が進行してくると、
いわゆる「痴呆の症状」と言われる、いくつかの特徴的な症状が現れてくることがあります。
例えば、昼と夜が逆転し、昼はよく眠りその分夜徘徊したり、吠え続けて近所迷惑になってしまったり、前進しかできず、物のすき間にはさまって身動きがとれなくなってしまう等、飼い主さんにとっても、犬にとっても困った問題が出てきます。

 

以下に「痴呆」の典型的な5つの症状を述べます。

 

 

■痴呆の症状
  • 夜中に意味なく単調な大きな声で鳴き続け、なだめても鳴きやまない。
  • 歩行はトボトボと前進のみで、時に一方行に円を描くように歩き続ける。
  • 狭い所に頭を突っ込み、一度はまってしまうと自分で後退できずにいる。
  • よく寝て食欲が異常にあり、下痢もしないのに痩せてくる。
  • 顔の表情が乏しくなり、何事にも無反応になる。また、飼い主さん、自分の名前、習慣行動(おすわりや待て等を含む)がわからなくなる。

 

先程もお話し致しましたように、「痴呆」になると夜中じゅう鳴き続けたりして困った問題となってしまいます。
そういった問題を回避するために「治療」「看護」が必要となります。

 

 

A.治療
近年、犬の「痴呆」を改善してくれるお薬(犬用健康補助食品)が開発されました。
本院でも、実際使用してみて、「夜、鳴かなくなった」とか、「痴呆の程度が軽くなった」と言った具合に、治療効果が現われるケースも多くあり、本当に困っていた飼い主さん達からも喜ばれております。
この「痴呆」の症状を改善させてくれる製品には、ヒトで脳硬塞等の血管障害さらに痴呆の予防に効果があると最近注目されているDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)という成分が含まれています。

 

DHA(ドコサヘキサエン酸)の作用 EPA(エイコサペンタエン酸)の作用
記憶・学習向上作用
血中脂質(脂肪成分)低下作用
網膜反射能向上作用
血栓予防作用
抗アレルギー作用
血栓予防作用
血中脂質(脂肪成分)低下作用
抗動脈硬化作用
抗炎症作用
免疫調節作用

 

この製品は動物病院にて販売されていますので、必要な方はかかりつけの先生に一度相談してみると良いと思います。
(ただし、全てのケースに効果があるという訳ではありませんので、その点も含めてかかりつけの先生にご相談下さい)

 

 

B.看護
私自身の経験からしても、痴呆の動物を看護することはとても大変なことだと思います。
考えてみれば、手のひらに乗ってしまう程の大きさで我が家にやってきたその日から、どんな時でもそばにいて心をなごませ、いやし続けてくれた大切な大切な動物達。うれしい時、楽しい時はもちろん、淋しい時にはじーっとこちらを見つめて心配そうにのぞき込んだその表情に、私達はどれ程の力を与えてもらったのでしょう。

 

純粋な思いのみで接し続けてきてくれた動物達の残された大切な歳月を、今までの数えきれない幸せの感謝とお礼の気持ちで、今度は家族である私達が最後まで暖かく見守り続けてあげられたらと思います。
「痴呆」の場合、Aの「治療」でお話しした科学的な力も借りなくていけないケースも多いのですが、「看護」に関しては(大変なことですが)飼い主さんの努力と愛情が一番大切なのだと思います。

 

 

今月は犬の「痴呆」についてお話し致しました。
ヒトでも難しい問題である痴呆ですが、動物達の場合は飼い主さんが、今回お話ししました痴呆の症状を勉強して頭に入れ、できれば早く気づいてあげ、早めに治療してあげることが重要だと思います。

 

もの言えぬ動物達の場合飼い主さんが気付いてあげる事が重要なのです。動物達が私たちに安らぎを与えてくれるお返しとして、動物達が楽しく健康でいられるように気づかってあげる事が飼い主さんの務めとも言えるでしょう。
そのためにも、この「動物病院だより」が少しでもお役に立てればと考えております。
他にもこんなことが知りたいということがあれば、お電話でも「ペット相談室」でもお気軽にご相談下さい。
Illust:LES5CINQ(Copyright 2002-2005 All rights reserved.)
※この『動物病院だより』は2002年から2005年まで『ペット情報サイトプチアミ』内で連載していたものです

 

 

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