ロンちゃん

 

院長先生が宮崎大学獣医学部の1年生だった時、初めて見る実習犬の中で、1匹のわんちゃんが先生の目に止まりました。毛はやや長毛で、白地に所々にこげ茶のぶちが入っている柴犬くらいの大きさの、一見どこにでもいるようなごく平凡な雑種なのですが、よく見ると他の子とどことなく雰囲気が違う、先生曰く「貴婦人のような……」とても賢く、気品(?)を漂わせたステキな子でした。その犬が、その後20年間凛とした姿で生き続けたロンちゃんでした。

 

ロンちゃん宮崎大学の学生だった当時、獣医学部の敷地には十数匹の実習犬がおりました。まるで長屋のように犬小屋が1列に並び、毎日学生達が食事や排泄、またお散歩などのお世話をしていました。

 

当時はどこの獣医学部でも実習犬がいて、本来保健所で安楽死をさせられてしまう犬達を保護し、実習犬として大学で育てていました。
「この子は一味違う!」と思った先生は、ロンちゃんと一緒に生活してみたくなりました。そこで大学の先生に無理を言って譲り受け、大家さんには内緒で下宿で飼うことになりました。
下宿生活はと言うと、ずっと室内で飼っていたので毎日一緒のお布団で眠り、1ヶ月に1回は一緒にお風呂に入って、シャンプーしたりしていました。

 

朝の通学は50ccのバイク! 座席の前のタンクにロンちゃんを乗せ、ハンドルを持つ両手でロンちゃんを抱えて落ちないようにして走ると、先生は注目の的でした。
ロンちゃんも、このバイクの通学がだ〜い好きで、前を向いて長い毛を風になびかせ、まるでツーリングを楽しんでいるかのようで、まんざらでもない顔つきをしていました。

 

ロンちゃんそのうち先生がバイクにまたがると、助走をつけ自ら“ピョン”とジャンプして、タンクの上に飛び乗るようになりました。
またロンちゃんは、大学の敷地内でリードをはずして散歩しても、他の犬のようにどこかに走って逃げてしまうこともなく、常に先生を気にして10〜20メートルくらいの位置にいて、いつも先生のことを目で追い続け後をついて行きました。
また授業が終わるまで、いつも校舎の入り口の芝生の上で静かにご主人様(先生)を待っていたのですが、ロンちゃんはとてもおとなしく、他の学部の学生達もみんな通りすがりに頭をなでてくれたので、とても人間好きな明るい性格のわんちゃんになって行きました。

 

大学卒業後、大阪の大学病院で2年間勤務し、その後、静岡に戻ってからのインターン時代も先生は4年間住み込みでお仕事をしていたので、ロンちゃんはその間ずっと先生の実家で面倒を見てもらっていました。

 

先生から引き続いてロンちゃんのお世話をすることになった先生の両親も、先生に負けないくらいロンちゃんのことを大切に可愛がって育ててくれました。
しかし、ひとつだけ問題がありました。
先生が実家に帰ってロンちゃんを見るたびに、ロンちゃんの身体に変化がありました。
大切に可愛がってくれるのはとてもありがたいことだったのですが、どうも甘いものでもそっとあげ続けていたのか、相変わらず貴婦人の面影を残しつつも、身体はぼてっとおばちゃん体系になっていき、帰省するたび先生はビックリ驚かされていました。それでもロンちゃんはとても元気に、のびのびと暮らしていました。

 

その後、先生がマスダ動物病院を開院した頃にはロンちゃんは10歳になっており、病院の受付で看板犬として過ごすことになりました。
昔と変わらずおすまし顔のロンちゃんは、受付の奥のクッションの上でリラックス!
時々“グーグー・グヒー”と貴婦人には似つかわしくないいびきをかき、体臭を少々かもし出しながらも、起きている時は居住まいを正し、瞳もキラリ☆と輝かせ、とても聡明な面持ちで静かに座っておりました。
そんなロンちゃんに、時折「私は何でも知っているのよ〜!むふふ」と横目でちらっと見られると、“ロンちゃん見ていたの〜?”って、こちらもなんにも悪いことをしている訳ではないのですが、何か全てを見られているような、そんな気分になったりしたものでした。

 

結婚と同時に飼い始めたプードルのミルキーと、開業してすぐに仲間となった猫の甲斐ちゃんも一緒に受付にいたのですが、子供子供した2匹と比べ、やっぱりロンちゃんは落ち着いていて貫禄がありました。

 

平凡ながらも平和な毎日が過ぎて行き、ロンちゃんも徐々に年をとっていきました。
病院の子なのでいつ身体の調子がおかしくなってもすぐに対応できる状況にあるのですが、ロンちゃんは病気らしい病気になったこともなく、とても健康に過ごしました。しかしやはり晩年は寄る年波には勝てず、徐々に足腰が弱くなり、最後は寝たきりになってしまいました。……いつの間にか、ロンちゃんは20歳になっておりました。

 

自分で起きて用をたせないので、時々お尻や手足にうんちがついていることもありました。
あの貴婦人のようだったロンちゃんが、“お尻にうんち……”
でもでも、いくら“お尻にうんち”でも、やっぱりロンちゃんは最後まで小奇麗なおばあちゃんわんこでした。瞳は相変わらずキラリ☆と輝き、身体の毛だってサラサラと衰えを知らず、呆けてうろうろすることもなく、でもやっぱり手足の力が入らないから自分の思うように動けなくなって、それで“お尻にうんち”になってしまったのです。
それでもいつもそんなロンちゃんのお世話を、優しいスタッフのお姉さんがしてくれました。

 

力が入らず、手足をハの字に伸ばして動けなくなるなど、確かに身体の衰えはあるものの、ロンちゃんの内臓はすこぶる元気! いつも食欲旺盛・もりもり食べて、周りのみんなを驚かせたものでした。
そうしてロンちゃんの毎日は、これからも変わらずずっと続くような気がしていました。
しかしその時は突然やって来たのです。

 

ロンちゃんある朝、いつもの様に手足をハの字に伸ばし、伏せをしているロンちゃんを見て、一瞬何が起きたのか分かりませんでした。
「あれ?呼吸してない!?」
よく見ると、ロンちゃんはいつもの様にハの字になったまま亡くなっていたのです。
ずっと普通に食べていたのに……。ずっといつも通りだったのに……。
でもとてもしあわせな最期でした。20歳☆ ……人間で言えば、約100歳☆ 本当に大往生です。凛としたロンちゃんらしい、見事な最期でした。

 

病院の仲間の第1号でありリーダー格だったロンちゃんは、病院の仲間たちの中でも最も長生きをしてくれました。
そのロンちゃんの長い長い歴史は20年で幕を閉じ、こうしてみんなに見送られ、天国に旅立って行きました。
最後に、先生がロンちゃんのことを、こんな風にお話してくれました。

 

ロンちゃん「天寿を全うするまでの20年間という長い年月を、ロンちゃんと共に過ごすことが出来ました。その中でロンちゃんとの楽しい想い出はまだまだ沢山あります。
今思えばロンちゃんが青春から老い、そして最期の死までの一生というものを体験させてくれました。
人の人生はおよそ80年とも言われていますが、動物達の寿命はそれに比べて短く、悲しく感じてしまうことも多々ありますね。その80年の、人生の縮図とも言えるロンちゃんの20年間を一緒に暮らせたことは、私にとって今でもとてもしあわせな記憶として残っています。」

 

天国に旅立ったロンちゃんは、きっと貴婦人の気品を漂わせながら、天国から私達のことを見守り続けてくれていることでしょう。
ロンちゃんも天国で、どうかしあわせでありますように……♪

 

ロンちゃんの写真が1枚しかないので、このホームページを制作して下さっているプラネット・プランターさんのイラストレーターさんに描いて頂きました。権田さん、可愛らしく描いてくださって、ありがとうございました♪

 

 

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