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抗がん剤治療の副作用が気になります

8歳のゴールデンです。先週脾臓の血管肉腫の摘出手術を受けました。続き抗がん剤治療を勧められていますが、副作用、ストレスの事など考えると決心が付きません。アドバイスを御願いします。(樋口さんより)


樋口さん、こんにちは。
脾臓の血管肉腫と診断され、摘出手術を行ない、現在抗ガン剤治療を推められているが、副作用やストレス等心配でどうしたら良いか悩まれているとのことですね。

血管肉腫は血管内皮細胞の悪性腫瘍を言います。脾臓以外にも肝臓や心臓をはじめ、血管が分布している臓器なら体のどこにもできる可能性のある腫瘍です。
一般に脾臓に血管肉腫ができた場合(脾臓は症状の出にくい臓器なので)発見が遅れ、血管肉腫自体が軟く、破裂しやすいので、お腹の中で破裂してしまうと出血多量やショック症状を起こし、急死してしまう事もあります。
樋口さんのゴールデンはその点では破裂する前に発見・摘出して頂けたのでとても良かったと思います。ただし、転移しやすい腫瘍なので、転移があるのか否かがとても心配です。肺や肝臓は特に転移しやすい臓器です。
次に、本題の抗ガン剤治療をした方が良いのか否かです。
一般的に抗ガン剤治療は、腫瘍(ガンや肉腫)の塊を手術で摘出し、手術で取りきれずに残った腫瘍細胞を薬(抗ガン剤)でたたくという理屈です。しかし、犬や猫ばかりでなく、人間でも抗ガン剤が今の理屈のように理想通りにいく事ばかりではありません。以下に抗ガン剤の問題点を箇条書きに示します(私の個人的な考えとしてお読み下さい)。

1.抗ガン剤は全ての腫瘍にオールマイティーではない:抗ガン剤が比較的良く効く腫瘍と、あまり効かない腫瘍があります。抗ガン剤が良く効く代表的な腫瘍は、リンパ性白血病や悪性リンパ腫があげられます。血管肉腫に対しては、抗ガン剤治療の方法も我々の専門書には記載されておりますが、リンパ性白血病や悪性リンパ腫に対する程の効果は期待できないように思います。
2.抗ガン剤で腫瘍が完治する事もないとは言えませんが、多くは延命的な効果しか期待できない場合が多いと思われる:1.でも述べた抗ガン剤が比較的良く効くリンパ性白血病や悪性リンパ腫でさえも、ある一定の期間は腫瘍がなくなったように見えてものちに再発することが多いのです。
ただ、その延命効果が飼い主さんにとっても、動物にとってもQOL(クオリティーオブライフ:病気の動物の生活の質が治療により良好に維持された状態である事)が守られ、価値のあるものと感じる事ができれば延命的な効果だけであっても抗ガン剤による治療の価値はでてくるものだと思います。
3.副作用の問題:一般的に抗ガン剤にはガンをおさえるというメリットもありますが、副作用というデメリットもあります。血管肉腫になった動物は貧血や血小板数が減少している事があり、副作用の注意を更にする事が大切になります。この副作用をなるべく少なくするためには、抗ガン剤に対する知識、経験ともに豊富であることが獣医師側に求められます。

又、定期的な検査や場合により輸血等も必要になるかもしれません。
以上のポイントをまとめると、

1.血管肉腫に対して、抗ガン剤がどの程度の効果を示してくれるのか?
2.抗ガン剤治療により完治する可能性があるのか。
もし完治は無理なら、延命効果は抗ガン剤治療をする場合としない場合ではどの程度の差があるのか。
3.副作用は、具体的にどんな事が考えられるのか。
副作用が認められた場合は治療はどうするのか、副作用を早期に発見するためには、症状以外にどのような定期チェックが必要なのか。
4. これが一番大切だと思いますが、QOLの問題はどうなのか。
一言で言えば、抗ガン剤治療をする事により、樋口さんと、樋口さんのゴールデンが少しでも多くの日々の幸せを感じられるのか。

以上の4点を、今一度診察して下さっている先生に教えて頂き、それらの情報(プラスの情報もマイナスの情報も全て含めて)を樋口さんが十分に理解した上で、ご自身で、どうするか決定するべきだと思います。 (2003.03.11)