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飼い主の責任はどこまでなのでしょうか?

昨年の8月に私の彼がオスの子猫を二匹拾ってきました。正確にはわかりませんが多分今7〜8ヶ月位だと思います。続き今まで具合の悪そうな事はありませんでしたが、今日猫達の事で意見の食い違いで喧嘩になってしまいました。
一つは、去勢手術の事。私は去勢手術をした方が良いと思うのですが、彼は「それは人間のエゴだ」と言います。人間の勝手な考えでそんなことをしたらかわいそうだと。
二つ目に、ワクチン接種。まだ猫達にはワクチンをしていません。私は去勢しないと言うならせめて病気をもらってこないようにワクチンをうってあげようと言ったのですが、彼はもし病気になって死んだなら、それがその猫の運命だと思えばいいと言います。
彼はとても猫達を可愛がっています。餌もトイレもシャンプーもブラッシングもちゃんとやっていますし、猫達に愛情もかけています。でもその二点については拒むのです。
飼い主の責任とはどこまでなのでしょう?寝床と餌だけでも十分?ワクチンまで?
私はペットを飼ったことが無いですし、いくら私が猫達を大事に想っていても飼い主は彼です。私が勝手なことをする訳にもいきません。どうかご意見をお聞かせください。(ミサさんより)


ミサさんこんにちは。
彼と喧嘩になってしまったとのこと。なかなか難しい問題ですね。
ミサさんのお話から、彼も猫達の事は好きで愛情をかけているとのこと。はたして彼の言うように、食事を与えて可愛がるだけで良いのでしょうか? こういった問題は個人個人の価値観や考え方により様々だと思われますが、今回は私なりの考えをお話しさせて頂きたいと思います。

そもそも、動物を飼っている人たちはなぜ動物を飼っているのでしょうか?
動物を飼う事により、大きい小さいまたは多い少ないはあるかもしれませんが、きっと、幸せや安らぎを感じたいと思うから、または、感じることができる事を知っているからだと思います。
実際、仔猫を見て「可愛いね」と思ったり、猫じゃらしで遊んだり、外出して帰ってきた時など出迎えてくれたりと、結構、彼も幸せを感じているのではないでしょうか。動物達は、こういったように人を幸せにしてくれる力があるのです。
特別養護老人ホームなどにおとなしい動物達を連れていって、お年寄達に触れ合ってもらいながら、色々なお話をする活動をご存知ですか? テレビ等で一度は見たり聞いたりした事があると思います。私も実際、その活動を行っている中で、日頃はあまり表情のないお年寄達が、動物達とふれあうだけでとても幸せそうな笑顔を見せてくれて、お年寄の方から話しかけてくれるように、現実にいつも「動物ってすばらしい力を持っているな」と感じさせられます。
それから、もう1つお話しさせて頂きたいと思います。これは数年前、ある有名な女性の獣医師の先生が講演して下さった時に、少し余談として話して下さった内容です。私はその先生のお話を聞いて「なるほど、本当にそうだな」と心から共感しました。
それは、「近年、珍しい野生動物を飼育する方々も少なくありませんが、本来、野生の動物は自然の中で野生のままでいる事が幸せであり、そこには人の手が加えられない方が幸せだと思います。それに対して犬や猫等は、数千年以上も前から人と一緒に生活をしてきている動物なのです。言いかえれば人が手を差しのべてあげなければ幸せに生活していけない動物であり、野良犬(現在では少ないですが)や野良猫が半野生的な形で生き抜いて行くのはけっして幸せではありません。最初に述べた野生動物とは逆に手を差しのべなくてはいけない動物なのです」といった内容でした。
実際、多くの野良猫達は短命で病気になったり、交通事故にあったり、寒い中空腹な思いでわずかなエサをさがしまわったり、痛みや苦しみの中で生き、そして多くは、人の目の届かないところでひっそりと最期を迎えているのです。
確かにミサさんの彼が保護してあげた仔猫2匹は、それだけでも幸せな方かもしれません。しかし、私は保護するということは、家に連れて帰って食事だけ与える事だとは思いません。保護する以上はそこに責任も生じてきます。
ミサさんのおっしゃるように、猫には死亡率の高い伝染病があります。ですからワクチンが存在するのです。また、去勢手術も可哀想な仔猫が増えないためにも、さらに本人(本猫)が野良猫と喧嘩したり、病気をもらったりしないためにも、本人にとってみればとても大切で、プラスになる手術だと思います。
動物は話せません。「恐い伝染病になって苦しんだり若死するのはいやだから、予防注射を射ちに連れていって」とは……。
毎月の「動物病院だより」で毎回最後に私が決まって書いている文章があります。一度読んでみて下さい。私がなぜ毎回同じ事を書いているのでしょうか? またなぜ「動物病院だより」を書いたり、「ペット相談室」で皆さんのご質問にお答えしているのでしょうか? 一人でも一匹でも幸せな飼い主さん、幸せな動物が増えてくれたらいいなと思っているからです。
ミサさんの彼も猫は大好きで優しい方のようですので、今お話しした事やなぜワクチンや去勢手術が必要か、もう一度話し合ってみたらいかがでしょうか。
色々と述べさせて頂きましたが、ミサさんのご質問「飼い主としてどこまでやるの? ワクチンまで? 去勢手術まで?」に対するお答えを一言で言うと「飼っているその人が飼っている動物からどれだけ沢山のものを返してもらっているか気付く程度に比例して、こちらからもやってあげたくなる事も多くなっていく」と思います。
「動物病院だより」その1を一度読んでみてください。(2003.02.07)