約2歳半の雌猫の胸部(乳腺付近)のしこりに関して相談させてください。
2週間程前に、左側胸部に直径高さ共に3mm程度のしこりを発見し、近所の動物病院へ行きました。結論としては、しこりだけを取って病理に出し、結果を見てから治療の要不要を判断するとの事でした。しかし、数日後に右側胸部にも2mm程のしこりを発見した為、同じ病院と、別の病院へ行き触診して戴きました。すると、後者の病院にて「乳腺腫瘍を考えたほうがよい。一方の乳腺全部を切除し、状況によっては数ヶ月後に反対側全てを切除する方法を考える」と言われました。しかし、前者の病院では「この年齢で乳腺腫瘍は考えにくい。まずはしこりのみを切除して検査する方法を薦める」と言われました。また、じっくり触ってみると乳腺に沿って非常に小さい粒がパラパラと並んでいる感じが掴めましたが、この事に関しても、前者は「心配無い」、後者は「心配だ」との見解です。
そして2、3日前から、最初に発見したしこりの大きさが1mm程小さくなり、硬さが強まった感じがするのと同時に、付近にパラパラと小さい粒が数個出来ているような感じがするのに気付きました。
母親(のつもりです)としては、もの言わぬ子供に、少しでも質の高い生活を少しでも長く生きて欲しいという気持ちが一番強いです。その観点から、両者の方法に関する不安や疑問について、大変厚かましいとは思いましたが、ご教示戴きたく質問をさせて戴いた次第です。
以下に、疑問質問を挙げさせて戴きます。
1.二歳半という年齢で、乳腺腫瘍が発症する可能性の有無。
2.乳腺を全部摘出した場合の、歩行等、日常生活への影響の有無。
3.現時点で、しこりのみの摘出と乳腺全摘を天秤にかけた場合、その後のこの子自身のQOLを考えた場合、どちらの選択がベスト(またはベター)か。
以上ですが、他に気になる点や、飼い主(母親)として留意すべき点がございましたらお教え戴きたく存じます。何卒宜しくお願い申し上げます。(さくらさんより)
こんにちは、さくらさん。
さくらさんの文章はさくらさんの気持ちが手にとるように伝わってくるものでした。近年、ヒトも動物もセカンドオピニオン(他のもう1人の医師または獣医師の意見を聞き、自分が治療方針を納得・決定するための材料とする事)という言葉が普及しだしていますが、とても大切で良い事である一方、さくらさんのケースのように180度違う答えが返ってくると、かえって困惑してしまうかもしれませんね。
さくらさんの3項目の質問にお答えする前に、少し乳腺腫瘍に関してお話させて頂きます。
様々な腫瘍がある中で乳腺腫瘍はニードルバイオプシー(腫瘍が疑われるしこりを針で刺し、細胞を少々取って来て、その細胞を顕微鏡で調べる事により、良性か悪性か、またどんな腫瘍かを調べる方法)では良性か悪性かを判断しにくい腫瘍と言われています。したがって、初めの先生の言うように、「まず、しこりだけを取り、病理検査をする」という方法も正しいように思いますし、次の先生の「悪性かもしれないから早く取った方が安心だ」も、うなずけるようにも思います。
ただし、さくらさんのお話から、いくつかのポイントがあると感じられました。
1.2才半と若い事
2.しこりか2〜3日前より1mm程小さくなったこと
以上の2点から悪性の乳腺腫瘍である可能性は(ゼロとは言えませんが)少ないのではないかな?と思います(これは私の個人的な印象であり、責任ある診断でない事をご理解下さい)
3.乳腺にできるしこりは乳腺腫瘍だけでなく乳腺の過形成(乳腺の分泌細胞が活発化している事)など他にも腫瘍以外のしこりも起こる事があります。
したがって、初めの先生の言うようにまず病理検査をし、その結果もし悪性の乳腺腫瘍であったのならば、早めに乳腺全てを取る手術をするという考えが支持されますが、一方で万が一悪性の乳腺腫瘍の場合は2番目の先生の言うように、あまり手を加える前に片方の乳腺全てを摘出するのが一番だという事も事実です(ただし、先程も申し上げたように、ニードルバイオプシーで手術の前にあらかじめ判断しにくい腫瘍なので、このようなジレンマが生じてくると思います)。
もしも、さくらさんの猫ちゃんが5〜6才以上で、しこりが小さくなるようなことがなければ私も2番目の先生と同じようなお話をしているかもしれません。
さくらさんのご質問の1〜3までのお答えを以下に述べたいと思います(前半の話と重複する部分もありますが)。
1.2才半で乳腺腫瘍が発生する可能性について:猫の乳腺腫瘍の年齢別の発生率を示す統計的なデータは見あたりませんが、経験的には2才半という若さで発生するのはかなりめずらしいと思います。
2.乳腺を全部摘出した場合の歩行等日常生活への影響について:本院でも乳腺腫瘍の場合、しこりのある側の乳腺全摘出を沢山やっておりますが、多少つっぱる感じはあるかもしれませんが、歩行等生活には問題ないと思います。
3.しこりのみを摘出し、病理検査をしてから以後の治療を考える方法が良いのか、乳腺全摘が良いのかについて:先程もお話致しましたように、さくらさんの猫ちゃんは2才半と若く、しかもしこりも1mm程小さくなったとのことですので、乳腺腫瘍でない可能性も十分にあると思います。
まず病理検査をしてもらったらどうでしょうか。
そのかわり、病理検査が悪性を示す結果であれば、即座に乳腺全摘を考えるべきだと思います。(2003.1.30)