(シーズ/メス/12歳/名前・みみ)
先日、血液検査で貧血気味でした。数値は、RBC9 PCV33 Hb16 MCV37 MCHC50 白血球は15000です。この数値は、やはり少し貧血状態でしょうか? 1ヶ月に1回、高齢なこともあり血液検査をしています。先月は異常なしです。貧血は初めてなので色々と心配しています。
内臓は脾臓が前から腫れているのと肝臓も少し腫れています。これは、何ヶ月か前からの状態です。
心配なのはリンパ腫や脾臓の癌なんですが、今のとこは癌らしいものはないらしいです。この数値で一般的に何か考えられる貧血の病名を教えていただきたいです。何でもいいのでお願いします。
それと、リンパ腫の場合、血液検査で数値はどうなりますか? 宜しくお願いします。(松本さんより)
松本さんこんにちは。
12才シーズーのみみちゃんが、定期検査の結果やや貧血があると診断されたとのことですね。
血液検査の数値の中で、貧血の程度を一番正確に表す項目がPCV(ヘマトクリット値ともいいます)です。
正常値は37〜55とされており、37より低い場合は貧血、逆に55より高い場合は脱水等により血液が濃縮している等が考えられます。
ただし、正常値とは正常な犬の95%が37〜55の範囲に入るということで、逆にいうと、正常でも5%の犬は37よりも低かったり、55より高かったりするということです。
もちろん、個体差がありますので、定期的なチェックをしていて、毎回PCVが50〜55の範囲にあった犬が38になったとすれば、貧血が起こっていると考えて良いでしょう。
したがって、みみちゃんの場合、今までの定期検査で貧血は一度もなかったでしょうから、今回PCVがいつもより下がった点、及び正常値の最低ラインの37を下回った点、以上2点を考えると、現在、軽度の貧血があるといえます。
次に、他の検査項目に関してですが(RBC9は何かの間違いかとは思いますが)、RBC、Hb、MCV、MCHC等は貧血の種類を見分ける検査で、例えば赤血球1個1個が小さくなる貧血とか、赤血球に含まれる鉄成分(ヘモグロビン)が少なくなる貧血等、貧血にも様々な種類の貧血があるので、それらを鑑別する単なるひとつの指標です。
みみちゃんはMCVがかなり低いので、赤血球が1個1個小さくなるタイプの貧血ということになります。
しかし、貧血を診断する上で更に重要となることが、貧血の原因です。
貧血の原因はたくさんありますが、大きく3つに分類されます。
1.失血により貧血:
外傷等による出血、慢性の胃や腸からの出血等。
2.溶血による貧血:
まるで水の入った風船が破れるように、赤血球が壊れることを「溶血」といいます。
例えば(玉)ネギ中毒などがその代表ですが、その他にもたくさんあります。
壊れた赤血球を処理する臓器は、肝臓及び脾臓です。したがって、溶血が激しい時は肝臓や脾臓が腫れることがあります。
3.骨髄での造血(赤血球の製造)能力の低下:
赤血球は骨髄(骨の中)で造られていますが、様々な原因(病気)により骨髄での赤血球の製造が抑制されることがあります。
例えば、リンパ腫や白血病、ある種の薬物やホルモン、慢性の細菌感染症、高齢による造血能力の低下等がありますが、他にもたくさんあります。
また、リンパ腫の場合は、肝臓および脾臓が腫れることがあります。
この貧血の3つの分類は、原因となる病気をしぼっていく上で、とても重要です。これらのことをかかりつけの先生と良く相談してみると良いでしょう。
あと、肝臓と脾臓の腫れに関しては、2と3の貧血で起こることがあると書きましたが、松本さんのお話ですと、貧血が発見される何ヶ月か前からあったとのことですので、今回の貧血の原因となる病気との因果関係は不明であり、なかなか難しい問題といえます。
以上、ざっと貧血に関して述べてみました。
重要なポイントのみをお話ししたつもりですが、一般の方にはやや難しく、かえって、松本さんを混乱させてしまったかもしれません。
要は、我々獣医師は、貧血ひとつに対しても、様々な原因の中から、真の原因を追及するために色々なことを考え、必要な検査をし、病気を見つけだす努力をしているのです。
したがって、今回示して頂いたデータは、貧血を考えるうえで、ほんのごく僅かなため、判断するには難しいと考えます。
次に、リンパ腫に関してですが、一言でリンパ腫といっても、様々なステージ(軽度または早期〜重度または末期)があります。
一般的に中期以降になると、血液検査上、貧血や白血球の増加等、変化が出てくることがあります。
しかし、一般的にはその前に体のどこかのリンパ節(リンパ腺)が腫れてくることが多いと思います。
体のリンパ節には体表リンパ節(アゴの下、首の付け根の肩のあたり、膝の後ろ側、いずれも左右対称的に腫れてきます)といって、手で触れる部位にあるもの、腹腔内リンパ節(お腹の中の臓器にあるリンパ節)、及び胸腔内リンパ節(胸の中のリンパ節)の3種があります。
後述の2種である腹腔内リンパ節と胸腔内リンパ節は、触ることができないので、レントゲン検査やエコー検査が必要になる場合があります。
このことに関しても、少々難しくなってしまいましたが、リンパ腫ひとつとっても様々なステージがあり、血液検査のみでリンパ腫を判断することは難しいということです。
最後に、私のアドバイスとして、もし、元気や食欲が普通にあるのならば、最初からあれこれ検査するのではなく、定期的な(大きな変化がなければ現在行っている1ヶ月に1度程度で良いと思います)貧血に関する検査をし、PCVの変化を観察していくのも、ひとつの方法だと思います。(2004.11.10)